sekibang 1.0

2012年1月3日まで利用していたはてなダイアリーの過去記事です。

四億年前、そこにパピコが

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 近鉄バッファローズのマークが刺繍された野球帽を斜めに、いわゆるヒップ・ホップ風のスタイルでかぶり、ハーモニカでジミ・ヘンドリックスを吹きながら教室に入ってきた男が、果たして本当にあのイブン=バットゥータであったかどうか、その真偽についてはここではさほど重要ではない。こちらとしては、むしろ、彼がイブン=ハルドゥーンであったとしても一向に構わないのだから、さしあたり彼のことは「『イブン=バットゥータ』を名乗る男」とでもしておいて欲しい。


 最初、彼はハーモニカを咥えたまま話しだしたものだから、フガフガと言葉にならない音が口から漏れたり、調子はずれの音が鳴ったりするばかりで、一向に彼が何を伝えようとしているのか私たちにはまったく判別がつかなかった。しかし、途中からは彼も私たちに話が伝わっていないことに気がついたようで、一旦ハーモニカをジーンズのポケットにしまった後、今度は背負っていたリュックサックのなかからローランドTR−303をおもむろに取り出して、アシッド感漂う強烈なビートに乗りながら、聴衆を煽るように語り始めた。


 「中東の某国で発掘作業にあたっていた国連の歴史調査団が、およそ、四億年前の地層からパピコの化石を発見した。君たちはこの現実にどう立ち向かう?」――アラビア語に精通する友人によれば、彼はおよそそんなことを話していたそうだ。私たちは、その後、学食で三九〇円のチキン・カレーを食べながら「そんなこと言われたってなぁ……」と苦笑いを続けるしかなかったが、あの教室のなかで唯一「イブン=バットゥータ」を名乗る男に共感を示していた同級生は、今では埼玉県行田市で自動車整備工場を構え、立派にやっているらしい。


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 夜明けの黒いパピコぼくらはそれを晩にのむ/ぼくらはそれを昼にのむ朝にのむぼくらはそれを夜にのむ/ぼくらはのむそしてのむ/ぼくらは宙に墓をほるそこなら寝るのにせまくない……。