sekibang 1.0

2012年1月3日まで利用していたはてなダイアリーの過去記事です。

ひとりぼっちのあいつ

ビーチ・ボーイズ ペット・サウンズ・ストーリー [ブライアン・ウィルソン奇跡の名作秘話]
キングズレイ アボット Kingsley Abbott 雨海 弘美
ストレンジデイズ (2004/08/24)
売り上げランキング: 59,222

 ブライアン・ウィルソンの少年時代から『ペット・サウンズ』が出来るまで、そして挫折と栄光と復活までを追った本。これを読んでいる間に『ペット・サウンズ』を5回ほど聴き直してしまった。聴くたびに泣けるね。


 かなりブライアンびいきで書かれている(マイク・ラヴはすごい悪者扱い)けれど「ビーチ・ボーイズというバンドは人間関係がものすごい複雑なバンドだったんだなぁ…」と思った。ブライアン、デニス、カールのウィルソン3兄弟、いとこのマイク・ラヴ、友達のアル・ジャーディン。で、まぁ、神格化までされているのはブライアンひとりなんだけれど、他の4人だってかなりエゴが強い人物なのである。決してブライアンの「言いなり」というわけではない。ブライアンと対立していたのは、マイク・ラヴばかりではなくて、少なからず他のメンバーだって反感を抱いていて、ブライアンはそこに罪悪感を抱いていたそうな。はっきり言ってビートルズなんかよりもずっとビーチ・ボーイズの方が複雑だ。何せ、現在もビーチ・ボーイズは「ずっと存続しているバンド」で、メンバー同士で訴訟しあってるぐらいだし。


 まぁ、そのへんの汚い話も面白く「ブライアン、カワイソス」と泣けるところなのだけれど、やはりこの本で最も面白いのは『ペット・サウンズ』レコーディング・セッションの詳細について。60年代中ごろのアメリカの音楽産業の模様や技術の話なんかが語られていて面白かった。あとセッション・ミュージシャンのデータだとかも興味をそそられた(後にフランク・ザッパとも活動するミュージシャンもいる)。


 あとはイギリスでの『ペット・サウンズ』のプロモーションの様子など。販促には何故か6人目のビーチ・ボーイズ、ブルース・ジョンストンがイギリスに行ってレコードの試聴会や記者会見に出ているのだけれど、その滞在中に様々なミュージシャンの絶賛の声を聞くという話が良い。しかも、最も絶賛してあちこちブルース・ジョンストンのお世話をしていたのはザ・フーキース・ムーンだったという…(似合わない)。


 『ペット・サウンズ』が完成した夜のブライアンの当時の妻マリリンの回想で泣きました。なんかすごく美しかった。良い本でした。100回ぐらい『ペット・サウンズ』聴いて、ハープのイントロだけで鳥肌立つような人は読むと3回は泣けると思います。