sekibang 1.0

2012年1月3日まで利用していたはてなダイアリーの過去記事です。

FEN(Far East Network)@キッド・アイラック・アート・ホール

 先日、大友良英さん(id:otomojamjam)より拙ブログをご紹介いただいてから未だに『大友良英のJAMJAM日記』経由でブログに来てくださる方が多いのであるが、そうした「友達の輪!」的なつながりとは関係なく、ONJOを活動休止している現在、大友さんが最も力を入れている(らしい)バンド、FENのライヴがあったので行ってみた。ライヴを観る前にちょっと下調べしたところによれば、バンド名の通り極東の国々の4人のミュージシャンがバンドを結成したのは2008年の4月。お披露目はフランスのマルセイユだったそう……といったところはすべて大友さんのブログにありますので上のほうにあるテキストボックスに「FEN」と入力してですね、検索かけてみてください。ちなみにバンド名に関するお話は、こちら(↓)が詳しいですよ。

 しかし、文字情報だけではこのバンドがどのような音楽をやっているのかどうかはまったく想像がつかないのであった。ここで老婆心ながら、楽器編成などについて記載を行っておくと以下のようになる(本日のライヴでもらったチケットに記載から引用。後述するけれど、ここでメンバーの国籍が表記されているのではなく、住んでいる都市が表記されているのは重要だと思われる)。

大友良英perc,guitar,turntable 東京)
YanJun(electronics, voice 北京)
Yuen Cheewai(laptop シンガポール
Ryu Hankil(inside-clock ソウル)

 本日のライヴは2部に分かれ、前半は上記のメンバーの順番の通りにソロ演奏があって、後半にバンドとしての演奏があった。振り返ってみると、前半でソロがあったから「ああ、このバンドはこういうメンバーによるバンドなんだな」というのが分かって、後半のセットにスムーズに入っていけたような気がする。いわば、前半は後半の布石として効果的に機能していたのだ。そこで気がついたのは「よくこんなに色が違うメンバーが集まったな」ということ。たとえば演奏形態と出てくる音についてもバラバラだ。


 4人もいれば、ひとりぐらい大友と同じようにギターを「ギューン!」と言わせるような人がいてもおかしくないのだが、見事に違う。大友は様々な楽器と楽器でないものを「演奏」し、ヤンジュンは楽器には見えないがスピーカーやマイク(?)といった音に関係しそうな機器を「操作」し、チーワイはラップトップを「使って」、ハンキルはタイプライターといった楽器ではないものから出る生活音に限りなく近い「音を出す」。こうしたバラバラさが後半のバンドとしてのパフォーマンスになるとうまくレイヤーを形成する。本日のセットでは観客を取り囲むようにしてミュージシャンが並んでいたのだが、こうしてレイヤーがうまく出来上がり、それがハーモニーのように響きだすと「この音楽はどの方向を向いて聴けばよいのか」というのが分からなくなってくる。


 こうした意味でもライヴでなくては味わえない種類の音楽であり、18日のコンサートに間に合いそうな人は是非足を運んで欲しい、と思った。先日の芥川作曲賞湯浅譲二が言っていた「私は未聴感のある音楽を求めている」という気持ち、これを仮に湯浅テーゼと名づけ、そしてあなたがこのテーゼを胸に潜める人であれば、間違いなくその気持ちは満たされるであろう。そして、アジアの個性的なミュージシャンの音からほとんど「アジア臭がしない」というのに注目して欲しい。そのとき初めてバンド名は、文字通り「極東のネットワーク」としてだけの意味で輝きはじめる。

9月18日(土曜)六本木 スーパーデラックス
FTARRI DOUBTMUSIC FESTIVAL
詳細はフェスのサイトを、FENの出演はラストの予定。
http://d.hatena.ne.jp/doubtwayoflife/20100901
http://www.ftarri.com/festival/2010/index.html

 キッド・アイラック・アート・ホールには初めていったんだけれど、ミュージシャンとの距離が近くてびっくりした。半径2メートル以内の距離で即興演奏が聴ける機会を持ったのもこれが初めてだ。その至近距離で、大友が回転するターンテーブルにカードを接触させて摩擦音を出す。カードは徐々に接触している角度を変えられていき、ある瞬間、摩擦音が綺麗に重音となった。この瞬間に耳がバッと開くような感覚があったのも至近距離のおかげかもしれない。