庄司紗矢香/Bach & Reger: Works for solo violin
同世代の音楽家の演奏を追っていく楽しみ、というのは確かにあって、1985年生まれの私にとっては、庄司紗矢香の活動を追っていくことでそうした楽しみを味わえる。1983年生まれの庄司については改めて紹介するまでもなく、現在国際的に活躍する日本人音楽家のなかで最も若手で、かつ最も広く活躍するヴァイオリニストであろう。17歳でドイチェ・グラモフォンからCDデビューして、今年は初アルバムから11年目。今回はフランスの「Mirare」レーベルからバッハとレーガーを扱った作品集である。これは言わずと知れた大バッハと、19世紀末から20世紀初頭に活動したドイツの作曲家、レーガーの無伴奏ヴァイオリン作品を交互に配置したもの。レーガーはそれほど有名な作曲家とは言えないが、後期ロマン派の末期においてバッハを信奉し、擬バロックというか、擬バッハ的な作品をいくつも残した作曲家だ。
収録曲
ライナー・ノーツにはこんな言葉がある――「バッハが残した記念碑的なバロック音楽を、尊敬する作曲家ブラームスのプリズムを通して再創造することが、まさにレーガーの音楽だった」と。ブラームス自身、バッハやベートーヴェンといった巨匠の作品にリスペクトを払っていた作曲家だったけれど、レーガーの作風はそうしたリスペクトをさらに過剰にしたもの、と言えるのかもしれない。高度な対位法を用いたその書法は、その後のシェーンベルクも賞賛したそうである。シェーンベルクは過剰なロマンティシズムから、研ぎ澄まされた無調/12音音楽へと移った作曲家であるわけだけれども、その無調/12音音楽の厳しさとレーガーの音楽の厳しさには確かに通ずる部分があるのかもしれない。
とはいえ、大部分のリスナーが注目するのは庄司紗矢香によるバッハであろう。というか、バッハの《シャコンヌ》を彼女がどう聴くのか、というところだと思う。しかし、同年代の音楽家として追っている、と言いつつも、庄司紗矢香は「○○的な演奏家」と紋切り型に表現するのが難しい演奏家である、と感じる。とりわけクールなわけでも、とりわけホットなわけでもなく、どこか優等生的な部分を見せつつ、しかし、ライヴではテンションが高い演奏を聴かせてくれる……という感じであって、今回のアルバムも聴くまでまったくどんな演奏が飛び出してくるのかまったく予想ができなかった。特別にエキセントリックな演奏はしてこないであろう、とは予想していたけれども、その予想は当たっていて、レーガーにおいてもバッハにおいても、豊かな音色を充分に響かせながら丁寧に引き込んでいくスタイルが取られている。「おっ」と思わせるクセや、不自然なルバートなどは皆無で、音楽はややゆっくりと流れていく。自然な情熱とでも言えば良いのだろうか。のめり込むようにして勢いを飛ばすのではなく、真摯に音楽が読み上げられるような演奏には好感が持てた。
録音はフランスのランファン・ジェジュ教会*1でおこなわれたそう。長いリバーブは好き嫌いが分かれそうだが、個人的には不自然な感じはしない音だ、と思った。