エミール・クストリッツァ監督作品『アンダーグラウンド』
アンダーグラウンド [DVD]posted with amazlet at 11.05.03
引き続き、俺内映画祭でクストリッツァの『アンダーグラウンド』を。第二次世界大戦中、対独抵抗運動をおこなうパルチザンがいろいろあって地下にもぐって兵器製造をおこなうこととなる。戦争が終わってからもなお地下では戦争が続いていると信じられ、それを利用した主人公は仲間に地下で作らせた武器を売りさばき、利益を得、そしてチトー政権下で権力を奪取する。しかし、いずれはその欺瞞が破綻して……みたいなお話の映画。(旧)ユーゴスラヴィアの政治史や民族的事情について疎いため、多少混み入った話になるとツラいのだが、国家の虚構性や社会主義リアリズムのハリボテ感が、地下で信じられている嘘と対比されることで浮かび上がるところが面白かった。作中は三部構成となっており、第三部では、そうした虚構がすべて暴かれた状況が提示される。ユーゴスラヴィアは内戦状態にあり、スラヴ人の独立と統一という理想が崩壊した最中、地下で信じられていた嘘も虚構であることが判明してしまう。嘘が嘘と分かった瞬間、物語は一挙に凄惨で、悲劇的な様相を示す。死体を載せた車椅子が燃えさかりながらグルグルと回り続けるシーンのものすごい絶望感は、ショッキングだ。だが、作品全体のトーンはどこか祝祭的である。冒頭から景気の良いブラス・バンドの演奏が始まり、狂騒的な気分を煽ってくるし、それは前述のショッキングなシーンの後にも再びやってくる。この映画のなかがずっとお祭り状態にある雰囲気は『黒猫・白猫』にもあるけれど、『黒猫・白猫』があくまで喜劇的な性格を持つのに対して、『アンダーグラウンド』はまるで躁状態で語られる悲劇みたいに感じた。それゆえに、映画が賑やかであればあるほど、悲痛さは増す。
なお、劇中のブラス・バンドのなかに「ワーグナー・チューバ」のような楽器があって気になっていたのだが、チューバ/セルパン奏者である橋本晋哉さんによれば、
とのこと。「バリトン」はドイツ式のユーフォニウムのことだそうで、バルカン系の民族音楽的ブラス・バンドにおいて使用されている模様。ワーグナーチューバとは構え方・管が巻いてある方向・バルブを操作する手が違っているので、それで見分けられるぞ!(豆知識)