sekibang 1.0

2012年1月3日まで利用していたはてなダイアリーの過去記事です。

eX.14「DUO TRANSPNEUMA plays Kawashima & Yamane」 @杉並公会堂 小ホール

川島素晴の作品>
蛇遣い [serpent, pf] (2010 / 初演)
ピアノのためのポリ・エチュード 《ポリスマン》 (2001) 《ノンポリ》 (2010 / 初演)
6本のヴァルヴを持つF管テューバのためのエチュード (2010 / 初演)
ピアノのためのポリ・エチュード 《トランポリン》 (2001) 《ポリポリフォニー》 (2007)

山根明季子の作品>
光を放射するオブジェ α [serpent] (2010 / 初演)
Dots Collection No.02 [tuba, pf+ピアニカ 版] (2007)
Dots Collection No.07 [pf] (2010 / 初演)
ケミカルロリイタ [tuba, pf] (2008)


eX.14 DUO TRANSPNEUMA

 作曲家、川島素晴山根明季子主宰による現代音楽コンサート「eX.」に足を運ぶ。前回の第13回に引き続き*1。前回も新しい音に触れるとても良い機会だったが、今回もとても新しかった(=聴いたことがない音が聴けた)。第14回目である本日のプログラムは「橋本晋哉(テューバ&セルパン)と藤田朗子(ピアノ)によるデュオを迎え、川島・山根の作品を特集する」という企画。


 川島素晴の音楽を実演で聴くのは今回が初めてだったのだが(ブログにコメントをいただいたりしているのに)、とても興味深く聴けた。高度な書法と「演劇的な」指示と強烈なユーモアは、衝撃的な異化効果……というか。演奏者が演ずる様々なアクションは、笑えるものであったり、それを通り越して不気味であったりするのだが、そのような印象に対して「どうしてこれが笑えてしまうのか」「不気味に思えるのか」と再帰的な問いかけを与えることとなる。例えばセルパンのなかからヘビのぬいぐるみが出てくる(《蛇遣い》)と客席に笑いが起こる。しかしどうして「セルパンからヘビのぬいぐるみが出てくると」→「笑える」のか。川島素晴の音楽はこうして意味を宙づりにする。話には聞いていたものの、ここまで強烈だったとは……と感心したのだった。


 後半の山根明季子作品は《ケミカルロリイタ》のテューバの発音と発声を同時におこなう特殊奏法の効果(ヴォコーダーみたいだった!)が凄まじかったが、また新しい《水玉コレクション》が聴けて楽しかった。これまでに私は5番と6番を聴いていて、今回は2番の新バージョンと新作の7番を。聴けば聴くほど、同工異曲というか、コンセプトの明確さが際立って聞こえる。《光を放射するオブジェα》のプログラム・ノートにもあるようにそれは「音のオブジェ」として我々の耳に届く。ゆえにその音楽には変化があっても、物語的な時間性がない。さまざまな光を見せるプリズムのように、音は現れては消えていく。そして作品はいつの間にか徴もなく終わっている。私が山根作品に感じている魅力のひとつにその「聴き終わったあと、音に取り残された切なさ」みたいなものがあるかもしれない。移動遊園地の跡地をぼんやりと眺めるような、センチメンタルな気分になる。