sekibang 1.0

2012年1月3日まで利用していたはてなダイアリーの過去記事です。

現代音楽の不安はネットによって解消されるか

Gaudeamus Muziekweek
 「ガウデアムス国際音楽週間」*1を主催しているガウデアムス現代音楽センターの公式サイト。「俺、全然現代の音楽しらねーじゃん!聴いてるの死んだ作曲家ばっかりじゃねーか!」と思って、作曲科の友達に聞いたら教えてくれた。世界中のいろいろな若手作曲家の情報が寄せられているらしい。ちなみに今年のコンクール受賞者はクリストファー・トラパニという1980年生まれ、アメリカ人。優勝賞金は4550ユーロ(日本円で約72万円)、それと来年の音楽祭で新作の委嘱上演されることが決まっている。
HOME - CHRISTOPHER TRAPANI
 トラパニの公式サイト。こちらでは作品の音源も聴くことができる。受賞作品となった《Sparrow Episodes》はエレキ・ギターを含む16人編成のアンサンブルのための作品で(残念ながらサイトでは途中までしか聴けないのだが)、リズムとテクスチュアの折り重なり方の複雑さ、音楽の非直線的な進み方はユニーク。ギターとエレクトロニクスを好んで用いているようで、まさにそのために書かれた《Really Coming Down》(特に終結部)はかなり良い。ノイジーなドローンのなかで、急にギターがカントリー調のメロディを引き出すところはジョン・フェイヒーみたいに聴こえる。「書かれたものか/録られたものか」。そのような違いしかアカデミックな現代音楽と非アカデミックな現代の音楽を隔てるものはないのかもしれない、とか考えてしまう。他の作品には、リズムから徐々にジャズ/ブルースのフレーズへと変容していくものがあり、複数の層から変化が生まれ全体が変化していくところに何かアメリカ的なものを感じなくも無い。チャールズ・アイヴズ(あとやっぱりジョン・フェイヒー)の音楽の下地にあった「アメリカの原風景」と似たようなものが聴き取れる気がする。
 つい先ほどは「Youtubeでベリオが聴ける!」と驚いていたばかりだが、本当にデビューしたてで作品数が10曲にも満たない若手作曲家の作品が「名前を知って、すぐに聴ける」という状況が既に実現されていることに驚いてしまった(インターネットってすげぇ!って久しぶりに思ったよ)。こういう風に作品を発表していて「すぐに聴ける作曲家」が増えすぎちゃっても聴き手としては追いつかなくて困るんだけれども、楽しい。時間が許す限り、体力が続く限り、探っていきたいような気分に駆られるし、ブーレーズの名言「私は現代音楽の未来に、なんら不安を持ったことはない」というのが楽観的だなぁ、と思えなくなってくる。
 また、暇なときに新進作曲家のサイトなどを紹介していきたいと思います。

*1:世界で最も競争率の高い作曲コンクールが開かれることで知られる現代音楽祭