sekibang 1.0

2012年1月3日まで利用していたはてなダイアリーの過去記事です。

ソフィア・コッポラ監督作品『ロスト・イン・トランスレーション』

ロスト・イン・トランスレーション [DVD]
東北新社 (2004-12-03)
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モテキ』が面白いという評判を聴いたのですが、なんとなく観る気にならず、そこには『(500)日のサマー』的な、サブカル刺激型の営業戦略を感じてしまって「ダメだ、そんな麻薬には引っかからないゾ」という深層心理があるわけですが、しかし、その深層心理は私に「あ、そうしたサブカル刺激型の営業戦略を完成させたのはソフィア・コッポラだったのでは」というささやきをもたらし『ロスト・イン・トランスレーション』を観るに至ったわけです(まあ、ソフィア・コッポラならなんでも良かったわけですが)。ひょんなきっかけで東京に来たガイジンふたりが異文化のなかで自分のアイデンティティを問い直し、そして彼-彼女は惹かれあうのだが……! みたいな映画だと思うんですけれど、まあ、その〜「流れ恋愛」とでも言うんですかあ? ガッツリ言ってしまうと「その場限りの関係(でも、ちょっと割り切ってない)」の原初形態が如実に描かれてしまっていて、端的に言って素晴らしいと思いました。恋愛を物語にするならば、男女の出会いが運命的なものである、という設定がひとつ物語を駆動するファクターになるでしょう。それは「たまたま東京で出会った」という設定を採用する本作でも同様なのですが、なんだろう、「たまたまアナタに東京で出会った、が、別に出会う人物はアナタでなくても良かった」という運命論から真逆にダッシュする偶有性への結合があり、そこが刹那的で良いなあ、と。それは秘密の関係でありますから、刹那的であっても燃え上がるわけにはいかない、つねに理性の歯止めがかかっており、それゆえ関係性がくすぶり続けなくてはならない、と言ったところがまた……。単に「ここはワタシの居場所ではない」、「本当の居場所がどこかにあるはず」と問うだけの映画であれば、ガールズ・ムーヴィー(笑)で終わってしまうんだけれども、その点で万国の帯妻者にも訴求する力がある映画だと思います。しかし、その訴求ポイントを力説した時点で「アナタにはそのような願望があるのか!」と問いつめられる可能性があり、その点は注意が必要ですが!


スカーレット・ヨハンソンの凶悪なおっぱいが随所に散りばめられており、その点も見逃せないのですが、よく見たらちょっとお腹がぽっこりだし、背も小さいし、なんか暗そうだし、声濁ってるし、で、冒頭あたりのダンナさんの超ハイテンションな友達に出くわして、全然乗り切れてない感のシーンは「あ〜、この人ゴージャスな役より、ヤリ逃げとかされちゃう役の方が似合うな〜」と思いました。全米ナンバーワンのセクシー女優に選ばれておりますし、スカヨハといえば完全な勝ち組女優じゃないですか。トム・ウェイツのカヴァーなど謎の仕事もしていますけれども。でも、負け組感溢れる空気が漂ってしまう、このアンビヴァレンツ。負け感を出しながら、勝つ、というこの矛盾。これはおそらく、彼女の骨格の縦横比がもう少し縦に伸びていたら生まれなかったモノではないか、と思います。また、ストレンジな東京の光景も素晴らしかったですね。描かれているのは2000年代の東京の文化、だけれども、雰囲気や空気感はバブリーな過去の東京、という混同があるように思われました。全般的にこの映画における日本の描写は観光映画みたいであって、京都にいくシーンなどは「JR西日本のCMか!」と思わざるを得ないですが、2000年代の東京とバブルの雰囲気の混同、そして誤解はこの映画をドメスティックな日本人にとっても「奇異な世界に紛れ込んだガイジン」という主人公の立場を理解するために結果として役立っていると思います。ビル・マーレイロキシー・ミュージックをカラオケで歌う、とか最高ですよね。