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2012年1月3日まで利用していたはてなダイアリーの過去記事です。

ウィリー・ヲゥーパー 『リアル・ブラジル音楽』

リアル・ブラジル音楽
Willie Whopper
ヤマハミュージックメディア
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音楽に関する本のジャンルのひとつに「ディスク・ガイド」というのがあります。これは俗にいう《名盤》をひたすら列挙していく本ですが、便利な反面なにか味気ないものを感じてしまうことがあります。どうしてその音楽が重要なのか、この人たちはどういう背景から登場したのか。ジャケット写真のわきに添えられた短い文章では、こうした音楽のコンテクストは説明しきれないからです。その味気なさをカタログ的な無味乾燥さと名付けることができるかもしれません。この『リアル・ブラジル音楽』はブラジル音楽のディスク・ガイドでありながら、従来のディスク・ガイドが持つ無味乾燥さを、まさにその音楽が生まれた背景を語ることによって乗り越えた名著ではないでしょうか。ブラジル音楽の本というだけでなく旅行ガイド的な側面もあれば、ブラジルの歴史についても学ぶことができる本書は、ブラジルという国を理解するためのツールとして音楽という方法が採用されているようにさえ思われました。


紹介されている音楽の幅は実に深く、MPBをひとつとってもかなり幅があって「これからこんなに掘り下げられる世界があるのか」という期待感を煽ってくれます。私がこれまで聴いてきたブラジル音楽など氷山の一角の上にのっかったロック・アイスぐらいのものであって、ものすごく多様で、さまざまなジャンルがある。しかし、そのジャンルも実は相互に絡み合っていて、一応区分けはされているのだが、あってないようなものとも言えるそう。このあたりの多様性が、ブラジルの文化的多様性のリンクしてくるのですね。この雑多さはブラジル固有のものなのかもしれません。例えば、日本だと演歌を聴いている人と、コーネリアスを聴いている人はあんまりいないじゃないですか(岸野雄一とかそういう人に限られてきますよね)。ジャンルのあいだに断絶というか区切りがある。でも、ブラジルだとそういうのが希薄で、むしろ、地域によって流行ってる音楽が違ったりするんだとか。日本ではそういうのもあんまりないですよね。東京で流行ってるものは名古屋でも、仙台でも知られてるでしょう。でも、ブラジルは違う。面白い国だなぁ、とますます興味が湧いてきます。


また、アイルト・モレイラなどのブラジル国外で活躍する著名なミュージシャンがブラジル国内ではほぼ無名である、という話(理由:ブラジル人はインストものを聴かないから)も意外でとても面白かったです。あとブラジルの平均年齢って29歳ぐらいなんだって。ブラジルの平均と自分は大体同世代なんですね(ちなみに平均43歳ぐらい)。ブラジルはこれから壮年期を謳歌する、ということなのかもしれません。それをリアルタイムで追っていくことができるのはちょっと楽しみかも。ポルトガル語もどっかのタイミングで始めたいです。ちなみに本書の著者は、日本人でウィリー・ヲゥーパーはペンネームだそうです。ブラジルのクラシックからメタルやヒップホップまで許容するすごい耳の持ち主だと思いました。尊敬。