sekibang 1.0

2012年1月3日まで利用していたはてなダイアリーの過去記事です。

夜の現代音楽講習会 今夜はまるごとシュトックハウゼン @三軒茶屋 Hell's Bar

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拙い進行で申し訳ありませんでしたが、無事、終了いたしました。まずはご来場いただいたお客さまに感謝いたします。ありがとうございました。終演後幾人かのお客さまより「次も楽しみにしています」とか「楽しかったです」といったお言葉をいただけたので、一安心(高校生のお客さまから『将来、こういうイベントを自分も開きたいんですが、どうすれば良いのでしょう?』と質問されたのには、なるほど、自分はもう進路相談とかを普通にされちゃう年なのだな、と感慨深くなってしまいました)。


「普段聴いている環境とはまったく違うから新鮮に聴こえた」、「ピンチョンの小説世界そのままで笑った」と当初の狙い通りの感想もいただけたのも良かったです。音楽を語る言葉は満ち溢れていて、ほとんど飽和していると言っても良い状況にあるにも関わらず、現代音楽を聴取する環境はあまりにも限定されている……という問題を《場所》と《時間》を設定することで、ちょっとでも変えることができるのではないか、という意図は成功したと言えるでしょう。ともあれ、このイベントの成功は選曲から内容のコーディネートまでご協力いただいた松平敬さんの力あってのものです。感謝の言葉はいくらあっても足りないぐらい。4時間の長丁場を引っ張る内容構成は素晴らしかったです。ありがとうございました。


難しい批評的な言葉なんか音楽を聴くのにはあまり必要でなくて、必要なのは適切な聴き方とそのための情報である、と最近は思っているのですが「夜の現代音楽講習会」はそうした意図を根底に置きつつ、今後も継続しておこなうイベントにしていきたいと思います。今回の来場者は43人。興行的には赤字なんですけれども、毎回10人ご来場していただける方を増やしていけば良いかな〜、と。次回の開催時期は未定ですが、「リュック・フェラーリ」、「リゲティ」、「クセナキスル・コルビュジエ」などのアイデアだけはあります。あと「オペラ座は燃えているか(ブーレーズ)」というタイトルとか。


実のところ、この日の曲目についてはほとんど未聴でした。だからこそとても勉強になるイベントだったのです。最初の《3 × Refrain 2000》は、かなり音数の少ない作品で「あ、この雰囲気で残りの時間は大丈夫かな」という風に心配になったのですが、規模の大きいオーケストラ作品や電子音楽作品になると少しずつ会場もリラックスして聴くモードになっていて、後半はかなりユルユルな雰囲気に。初期から晩年までを辿って行く構成でしたが、シュトックハウゼンの作曲技法の変化は結構わかりやすかったのだな、と。《短波》や《HYMNEN》では様々な素材をカットアップのように自作に盛り込んでいてオーケストラや電車音といった楽音と具体音とが絡み合うのですが、直観音楽ではその具体志向みたいなのから離れてしまう。松平さんの解説によれば、直観音楽はテキストによる指示によってのみ構成された作曲作品で、演奏家はその指示をもとに直観で即興演奏を繰り広げる音楽だそうです。《渡り鳥》は直観音楽のひとつでしたが、音はかなり今っぽい。なかなかのレア音源だったようですが、私はこの作品が一番感銘を受けました。


で、そうしてものすごいフリーキー(というかアナーキーというか)な方向に突き進むかと思えば、シュトックハウゼンのスタイルはフォルメル技法に変わってしまう。ここではフォルメルという音型によって、フラクタルのように全体が構成され、ミクロコスモス-マクロコスモス、万物照応! みたいに作品が作られているそうです。いわば、直観音楽からフォルメル技法には非作曲的なコンポジションからガチガチな作曲行為の極北へ……みたいな揺り戻しを感じます。


後半に入ってからのオペラ《Lichit》と連作《Klang》を中心とした選曲も前半とまったく雰囲気が違っている。耳が慣れたせいもあるでしょうが、後半のほうが楽曲はポップに聴こえました。長大な作品では松平さんによる10分程度の抜粋版。おそらくは一番すごいシーンを選んでくださったのだと思いますが、2005年に聴い《Lichit》の最終場面で味わった「渋い……」という印象が払拭されるようでした。結構ロマンティックな響きの曲もあって、シュトックハウゼンがしばしばワーグナーと並置されて語られるのも納得がいきます。オペラのストーリーも紹介されたのも興味深かったですね。「え、これはもしかしてシュトックハウゼンが自分を主人公に投射したビルドゥングロマンスなの?」と思いました。


ラストの《Cosmic Pulses》は30分超の電子音楽作品。これはもう大団円と言って良かったでしょう。ラスト前に途中で帰られた方もいたのですが、この大ネタが体験できなかったのはちょっと勿体なかったかもしれません。