sekibang 1.0

2012年1月3日まで利用していたはてなダイアリーの過去記事です。

eX.13「フランコ・ドナトーニの初演作品を集めて」 @杉並公会堂小ホール

曲目
フランコドナトーニ(全曲日本初演
Clair II [cl] (1999)
Che [tuba] (1997)
Duet no. 2 [2vn] (1995)
Small [picc, cl, hrp] (1981)
Small II [fl, vla, hrp] (1993)
Luci [alto fl] (1995)
Luci III [SQ] (1997)
The Heart's Eye [SQ] (1980)


山根明季子(新作世界初演
Dots Collection No.05 ―フランコドナトーニへのオマージュ― (2010)
[fl, cl, tuba, hrp, SQ]


出演
多久潤一朗fl, 菊地秀夫 cl, 橋本晋哉 tuba, 松村多嘉代hrp, 辺見康孝・亀井庸州 vn, 安田貴裕vla, 多井智紀vc, 川島素晴cond

 「eX.」は作曲家の川島素晴と山根亜季子が主宰する現代音楽コンサートのシリーズ。今回は今年が没後10年になるイタリアの作曲家、フランコドナトーニの日本初演作品が特集だった。このシリーズに足を運ぶのは初めてだったが、次の演奏会も楽しみになるような興味深い企画だった。会場では細川俊夫有馬純寿の姿を見かけ(ミーハーなので、そんなことでも興奮してしまいつつ)日本の現代音楽界の最先端を感じることができた。


 ドナトーニの作品は「オートマティズム」という作曲技法によって書かれている。この技法、プログラムに寄せられた川島による解説によれば「既成の素材に基づく自動化されたシステムによる作曲」であるらしい。そこでは素材を法則によって変形させ、さらにその変形体を別な法則によって変形させて……という連続で楽曲ができあがる。このとき、楽曲は「恣意性の排除」が行われた状態となる。そして、生成された音列から三和音を抽出するなどのある種の「調整」が加えられることによって楽曲は完成を迎える。


 こうして出来上がったドナトーニの楽曲は、川島が指摘するように現代音楽の典型的なイメージである「晦渋で不気味な音響」からは大きく距離をとっている。各楽器はベルカントのように響き、その美しい音色とともに発揮される技巧は聴く者の興奮を呼ぶだろう。独奏クラリネットのための作品《Clair II》は、その典型と言っても良いかもしれない。冒頭から何度もエチュードのような上行音形が繰り返され、微細に、時に大胆に変化していく。その模様を読み取るようにして聴くことも、暗号を解くような愉しみがあろう。


 個人的には《Small》、《Small II》というハープを含むアンサンブル作品が今回のドナトーニ作品特集のハイライトである。極小の、秘密めいた音量で奏される美しい音色が集中力をかき立てられた。


 演奏会のラストを彩ったのは山根による新作の初演。日本音楽コンクールで1位を取ったときに名前を知り、とても気になっていた作曲家だったのだが、今回漸く「音を視覚像として捉え、模様をデザインすること」がコンセプトとなっている彼女の作品に触れることが出来た。ハープによる小さなドット、その他の楽器による大きなドット、それらが断続的に現れては消え、現れては消えていくイメージが、非常にはっきりと描かれた作品のなかで、柔らかいアンビエンスが徐々に変化しながら形成されていく様子がとても面白かった。とくにハープ以外の楽器がトゥッティで大きなドットを描くとき、そこでは様々な奏法や音色が混ざり合い、錬金術的な色彩の魔術が感じられた。是非、大オーケストラのための作品も聴いてみたいと思った。


関連サイト
eX.(エクスドット)
山根明季子