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2012年1月3日まで利用していたはてなダイアリーの過去記事です。

シャイー指揮ゲヴァントハウス管/J.S.バッハ《マタイ受難曲》

St Matthew Passion (Bril)
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 新譜。昨年末にリッカルド・シャイー/ゲヴァントハウス管のコンビによる《ブランデンブルク協奏曲》の全曲録音が出たばかりですが(そちらは未チェック)*1、間髪おかずに今度は《マタイ受難曲》の全曲録音です。イタリア出身のこの指揮者の同世代には、ラトル、ゲルギエフと言った錚々たる顔ぶれが並ぶのですが、現在50歳代の超一流指揮者のなかでは彼が最も好きなので、こういう風に積極的に録音を出してくれるのは喜ばしいことです。


 《マタイ受難曲》といえばJ.S.バッハが残した作品のなかでも最大規模の作品であり、イエスの受難をストーリーにした「普遍的な人間ドラマ」を描いた作品として有名ですが、歌詞がわからないので「人間ドラマ」についての詳しい事情はよくわかりません。規模の大きさは、演奏時間が3時間近くあるので、まぁ、わかる。大部分の日本人にとってバッハの《マタイ》とはそのような理解のされ方をされているんじゃないか、と思います。アリアはコラールは良いけれど、レチタティーヴォはよくわからん、みたいな人もいるでしょう。こういう《マタイ》の性格を、私は「深遠なる退屈さを持つ音楽」と呼びたります。おそらく、この音楽が癒しを生むのだとしたら、その退屈さが生み出す効果なのでしょう。


 しかし、シャイーの《マタイ》はそれとは別種の音楽を成立させています。速めのテンポが採用されているせいもあるのですが、節度がある細やかなダイナミクスのなかに興奮を呼び起こす要素がいくつも隠されていた、とても良い演奏に思えました。部分的に古楽器を採用しているところも注目に値します。現代楽器と古楽器の音色の違いが、色彩の濃淡を生んでいて興味深いです。シャイーは数年前にシューマン交響曲を録音したときも、マーラーによる改訂版を採用していたのが印象に残っているのですが、こういった「他の指揮者とは違う演奏をする」といった取組みが上手いですね。

*1:この録音、HMVだけで先行発売していたみたい。公式な発売日は2010年2月24日になっています