sekibang 1.0

2012年1月3日まで利用していたはてなダイアリーの過去記事です。

『マイケル・ジャクソン THIS IS IT』

 最終日のせいか郊外のシネコンでもほぼ満席……という状況でマイケル・ジャクソンの映画を観ました。面白いとか面白くないとかではなく実に感慨深い映画だったと思います。終演後には拍手が起こっていて(自分はしませんでいたが)、会場をあとにするほかのお客さんの声も熱くて、改めてキング・オブ・ポップの訴求力みたいなものを感じてしまいました。もう死んだけど。そう、もうMJは死んでるんだよ! ということで後味があまりよくありませんでした。スクリーン上で奇怪なほどシャープな動きをする白い50歳とは思えない動きをしていて、声も結構出ている。観る前は痛々しい姿を予想していたのですが、圧倒的な現役バリバリ感を示している。だからこそ、マイケル・ジャクソンの“急死”の重みが一層感じられてしまいます。私は死んだから/死んでから、再評価をおこなう、といった行為を好みません。この映画に贈られた拍手は生前の彼に贈られるべきものであった、と思いますし、さらに言ってしまえば彼が非常に苦しい時期にあった頃に贈られるべきものであった、と思います。少々ナイーヴ過ぎるしれませんが、私はこの映画に対して、素直に拍手をすることはできませんでした。そんなに思い入れがあったわけでもないですし(好きだったけれど)。


 いきなりブツクサと続けてしまいました。繰り返しますが、スクリーンに映る「圧倒的な現役バリバリ感」のマイケル・ジャクソンはすごかったです。まず、彼の周囲に配置された若いダンサーとはまるで異質な動きをしているのがすごい。マイケル・ジャクソンと若いダンサーたちの動きがシンクロしていても、中心にいる白い50歳の動きはあきらかに違っている。まるでその白い人の周りだけ地球の重力が5分の1ぐらいになっているんじゃないか、っていう軽い動きをしています。別な言い方をすれば、筋力を感じさせない動き、とでも言えましょうか。たしかに、若いダンサーたちは男女問わず、すごく厚くて、重そうな鍛え上げられた身体を持っている。そのなかでMJだけが薄っぺらくてヒョロヒョロして、異様に白い。映画のなかで、その彼が黒人のマッチョな女性ダンサーと絡むシーンがあるのですが、これはとてもすごかったですね。なんかホントにこの人はピーターパンだったんじゃないか、っていう軽さ。ダンスという身体表現において、どういったことがすごいのか、に関しては知りませんけれども、あの異質さには驚かされました。


 あと(多少ネタバレになってしまいますが)「Smooth Criminal」用に撮影された映像のなかで、MJがハンフリー・ボガードと共演しているところもなんだかじーんときてしまいました。すごく映画的な世界のなかにいた人だったのだなぁ、と改めて思ったりして(「Beat It」も『ウェスト・サイド・ストーリー』だったわけですし)。