sekibang 1.0

2012年1月3日まで利用していたはてなダイアリーの過去記事です。

よしながふみ『きのう何食べた?』(三)

 『きのう何食べた?』の最新刊を読みました。これはやはりとても面白い漫画だと思います。学生時代に、自身もゲイでゲイや中高年男性のライフ・ヒストリーを専門としている先生のゼミでTS*1をやっていたときのことを思い出します。主人公、筧が抱える「老い」や「老後」に抱える不安が、その先生が語っていた問題とほとんど一致しているのですね。しかし、そういったマイノリティの生活の様子を描いている一方で、こういったやり取りも描かれる。

「対して俺のほうが次の彼氏を見つけようと思ったらですね… ゲイの出会い系サイトの掲示板に書き込みをして返事もらったら(略)」
「…けっこうめんどくさい」
「そう! はっきり言ってめんどくさい!! 40も半ばのこの年で一から恋愛するなんてもう俺は嫌なんだ!! だからあいつとは絶対に別れたくないんです!!」
「あー まー 分かるわよ あたしだって夫と一緒にいてすっごく楽しいってわけもないけどこの年で独りになるのも再婚するのも面倒だから別れないだけだもんね」

 ここでは、ゲイの弁護士と中年の専業主婦との間に生まれる共感が示されるわけです。ただ、次の瞬間には「俺達は周りの親戚や親から『別れちゃイカン』という強制力が働くわけでもないんでね」と、ゲイのカップルと夫婦との制度的な差異も示される。『別れちゃイカン』という強制力が働くことによって、夫婦は「恋愛をする」という人生のステージから降りていることが可能であるのに対して、ゲイのカップルはそうではない。そこには降りられないというある種の不安が常に潜んでいるのであります。

*1:Teaching Studentの略だったか? 学部生がやるTA的な役割を私が通っていた大学ではそう呼んでいた。少ないながらお金も貰える