sekibang 1.0

2012年1月3日まで利用していたはてなダイアリーの過去記事です。

アンドレ・ピエール・ド・マンディアルグ『薔薇の葬儀』

 去年から結構集中的に読んでいるマンディアルグの短編集を読む。書かれた時期は70年代の後半から80年代で、短編集としてはこれがマンディアルグの最後の本となる。ここまでかなり面白く読んできた彼の作品だったが、これはちょっとよくわからなかった……。基本的なテイストというのは『城の中のイギリス人』*1や『すべては消えゆく』*2といった作品でみられるような「衒学的な文体で書かれた怪奇幻想な変態小説」という感じなのだが、どういうわけかハマらない。訳文のせいかもしれないのだが、そこまで面白く読めなかった。それが「森のなかを車で走ったら自転車乗りの少女を轢いてケガをさせてしまった男が、手当てのついでにその少女をモノにする」というすごい話であってもだ。うーん……。日本のモチーフが登場するところが重要視されているようだが、これもよくわからない。本の裏表紙にはこんなことが書かれている。

三島や谷崎への接近はマンディアルグの世界にさらに豊穣な実りをもたらした。

 ちなみにマンディアルグは三島作品のフランス語訳もおこなっている。ここでのマンディアルグは、三島や谷崎のほの暗い暗黒風味なエロスをヨーロッパ風に再構成する試みを行っているように思う。しかし、そこで出来上がったものに魅力を感じないのである。そこで登場する日本のイメージは、妙にうさんくさく、ハリウッド映画に出てくる日本人役の中国系アメリカ人のような違和感と、スティーリー・ダンの『AJA』のジャケットのようなオリエンタル感を持つように感じ、おそらくそれは“あえて”そのようなイメージに仕立て上げたのだろうが、とにかくハマれない。


 表題作「薔薇の葬儀」などその典型で、この作品には忍術的な殺しの技術を身につけた日本人女性四人組がでてくる。名前はダイニ、イヨ、イヌキ、アオイ。この四人組の女主人というのがナカ・ハンというなぜか白塗りの妖術使いのような女性で「中国のハン(漢)王朝の王子の末裔らしい」という設定がなされている。なにそれ……。いや、暗黒舞踏とか川久保怜とか色々とイメージをかきたてる日本が当時のパリには存在したのかもしれないが……。