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2012年1月3日まで利用していたはてなダイアリーの過去記事です。

CRAMPS LABEL COLLECTION/『音楽のスケッチ』

MUSICA SU SCHEMI(紙ジャケット仕様)
グルッポ・ディ・インプロヴィゼオ・ヌオーヴァ・コンソナツア
ストレンジ・デイズ・レコード (2007/11/28)
売り上げランキング: 15687

 日本の音楽雑誌『ストレンジ・デイズ』が主催しているレーベル「ストレンジ・デイズ・レコード」が今年になって、イタリアの前衛系レーベルCRAMPSのレコードを、紙ジャケット仕様で再発させている。このレーベルから出ている音源の多くは、以前にもAKARMAというイタリアの会社が紙ジャケで再発していたのだけれども、何せガイジンがやることだから作りが甘く、ほぼ段ボールの紙にジャケ写をプリントした……みたいな作り。これが『ストレンジ・デイズ』の社長である岩本晃市郎さんはとても気に入らなかったらしい(本人が「AKARMAはゴミだよ!」って言ってるのを昔聞いたことがある)。「それなら自分で再発しちゃえ!」とばかりに今回の一大事業は始められているのだろう。個人的には、紙ジャケのディティールは割りとどうでも良いのだが、実際手にとって見ると結構びっくりするぐらい綺麗で、ちょっと感動してしまった。まさに「ストレンジ・デイズよりストレンジなのはストレンジ・デイズだけっ!!」という感じである。
 この「CRAMPS LEBEL COLLECTION」、もう既に第6弾までシリーズ化されている。このCRAMPSレーベルからレコードを出しているアーティストにはアレアやアルティ・エ・メスティエリなど、ジャズロック/フリージャズを経由したイアリアのプログレバンドがおり、彼らのアルバムは既に発売されている。第4弾までは「ストレンジ・デイズ」っぽいセレクトで、アレア関連のアーティストが続いていたりしたのだが、第5弾はグッと渋さを増していてデレク・ベイリースティーヴ・レイシーなどフリージャズからのセレクト。で、第6弾はガチガチの現代音楽から選ばれている。これには、白い背景に黒い文字とキノコの絵が書かれたジョン・ケージの作品集(かなり有名なアルバム。ちなみにアレアのデメトリオ・ストラトスが参加)などが含まれているのだが、そのなかでも「グルッポ・ディ・インプロヴィサツィオーネ・ヌオーヴァ・コンソナンツァ(Gruppo Di Improvvisazione Nuova Consonanza)」というグループのアルバムには驚いた。
 この『音楽のスケッチ(Musica Su Schemi)』には1セット10分ぐらいの即興演奏が4セット、合わせて40分弱の即興演奏を収録している。この40分間、旋律や明確なリズムといった「秩序だった音楽的要素」は一切姿を現さない。聴こえてくるのは、ピアノの内部奏法、パーカッション、様々な金管楽器による、金属的な音響のみである(ある意味これはヘヴィメタル)。混沌としている。しかし、よく聴くとその混沌のなかにも、秩序だったものを感じる――音と音の隙間に、演奏者の空気の読み合いを感じること、または轟音だが「美しくない音」は出されていないという自律的規制をこの演奏から感じる。
 グループ名を直訳すると「新しい調和の即興演奏グループ」という風になる。「名は体を現す……」というけれど、この混沌のなかにある秩序が示しているのはまさに「新しい調和」だろう。その新しい調和では、あらかじめ予測されるような和音の解決や協和、または金管楽器や打楽器によって華々しく演出される“感動のフィナーレ”は用意されていない。にもかかわらず「これは紛れも無い音楽だ。それもとても美しい音楽」と言わしめる厳格さを持っている。正直言って1970年代のイタリアにここまで高度な即興演奏ができる人がいたとは思わなかった。これは12音技法やトータルセリエリスムといった「新たな規律」よりも魅力的にさえ聴こえる。
 「ここまでやれるのは、どういうメンバーなんだろう」と思ってパーソネルを開いてみると、ほとんどが「ダルムシュタット講習会」や音楽大学でのエリート教育を受けてきた音楽家である。そのなかに、エンニオ・モリコーネもトランペットで参加しているのも驚きだ。しかも「あの音楽家が若かった頃の……」といった若気の至り的記録ではない(すでにセルジオ・レオーネ作品などで有名なサントラを書き残した後に参加している)。