ブラームス交響曲第4番のいろいろ
季節を問わず年中ブラームスを聴いている身としては「ブラームスは秋の作曲家だ」と言われても、あまりピンとこないところがあるけれど、それでも夜の時間がぐっと長くなって、お風呂からあがったらすぐに布団の中に潜り込みたいような季節になると、やはりブラームスの音楽が生活と馴染んでくるな、と感じたりする。特に彼の最後の交響曲第4番なんかが良い。晩秋の物悲しさと、厳しい冬の予感が入り混じって響いているような、そんな感じがする。
Brahms: Symphonie No. 4 / Carlos Kleiber, Wiener Philharmonikerposted with amazlet on 07.11.04Johannes Brahms Carlos Kleiber Vienna Philharmonic Orchestra
Deutsche Grammophon (1998/05/12)
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冒頭にあげた映像はカルロス・クライバーの1996年の「熱演」。第4楽章でヴァイオリンがピッチカートからアルコに切り替わるところのメロディが非常に濃厚な味付けをされているのだが、全体的に見ると非常にカッチリと操作されたところがある。外面の冷たさの内側で、熱いものが蠢いている感じだ。1980年にウィーン・フィルを振ったときの演奏は、言わずと知れた名盤だけれども、この映像の演奏よりもさらにディティールが細かく設定されていて、硬い殻のなかに情熱が潜んだような名演だと思う。
Brahms;Symphonies Nos.3 & 4posted with amazlet on 07.11.04
ソヴィエトを代表する指揮者であったエフゲニー・ムラヴィンスキーのブラームスもタイプとしてカルロス・クライバーのものに近いだろう。だが、ムラヴィンスキーの場合、その外面の冷たさはカルロス・クライバーよりももっとずっと厳しく。芯まで凍えてしまうようである(あんまり録音の状態がよくないのもこういう印象の要因でもあるのだが)。
Brahms: Symphonies Nos. 3 & 4posted with amazlet on 07.11.04Johannes Brahms Michael Gielen SWF Sinfonieorchester Baden-Baden SWR Baden-Baden and Freiburg Symphony Orchestra
Haenssler (2006/08/08)
最近の演奏では、ミヒャエル・ギーレン/南西ドイツ放送響の演奏がダントツで良い。ギーレンといえば現代音楽のスペシャリストというイメージがあるが(ストローブ=ユイレによって映画化されたシェーンベルクの《モーゼとアロン》でも演奏を担当している)、これはモダンなクラシック演奏の見本となるような演奏である。速いテンポのなかで設定された、細やかなダイナミクスと決して荒れることの無い端正な演奏が良い。澄み切った気分で音楽を楽しませてくれる。
Brahms: Symphonies Nos. 3 & 4posted with amazlet on 07.11.04Johannes Brahms Daniel Harding Bremen German Chamber Philharmonic
Virgin Classics (2007/07/17)
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若い指揮者の演奏だとダニエル・ハーディングの演奏が非常に個性的である。とにかく軽やかに音楽を運んでいく解釈は「もっとも秋っぽくないブラームス演奏」とでも喩えられるだろうか。「え!?こんなアコーギクを採用しちゃうんだ!?」という斬新さも含めて、聴いていて楽しい。変化球で攻めてくる感じなのだが、さすがクラウディオ・アバドとサイモン・ラトルという二人のベルリン・フィル音楽監督に見初められた指揮者だけあって、聴かせるものが充分にある。どうでも良いけど、この再発盤のジャケット良いな。
Brahms: The Four Symphoniesposted with amazlet on 07.11.04
ルドルフ・ケンペという指揮者は結構マニアックな部類の指揮者に入ってしまうだろうけれど、彼の振るブラームスはすごく良い。特にベルリン・フィルを振ったときの全集には、1990年代のモダン演奏を先取りしたかのような溌剌とした魅力が詰まっている。「隠れた名盤」としてここでは取り上げておきたい。
Brahms: Symphonies Nos. 1-4; "Haydn" Variations; Alto Rhapsody; Overturesposted with amazlet on 07.11.04Johannes Brahms Otto Klemperer Christa Ludwig Philharmonia Orchestra of London
EMI (2004/04/06)
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オットー・クレンペラーの演奏はちょっと変わっている。この指揮者は大概「ちょっと変わっている」のではなくて「すごく変わっている」タイプの名演を残している演奏家なのだけれども、ブラームスの演奏はとても不思議である。穏やかなテンポが選択されていて、木管楽器の音を強調させて豊かな響きを作り出しているところは、いつものクレンペラーといった感じなのだが、その豊かさがブラームスとあまりに馴染まない。かと言って悪い演奏というわけではない。聴いていると、測量を間違えて建ててしまった家にいるみたいな感覚に陥る。名演じゃないんだけど、聴いていて愉快な気分になる。
ブラームス:交響曲第3&4番posted with amazlet on 07.11.04
「名曲には名演が募る」という名言があるように(嘘。今、私が適当に作りました)、この曲には数多くの名録音が残されているんだけれども、最高なのはやはりカール・ベーム/ウィーン・フィルの演奏なのではなかろうか。「これ一枚だけでベームの名前はクラシック演奏史に刻まれてしかるべき!」という究極の一枚(また、ウィーン・フィルの長い歴史のなかでも、飛びぬけて『ウィーン・フィルらしさ』が現れた演奏でもある)。ゆるやかなテンポのなかで、自在に動くルバートや管楽器のニュアンスが非常にエレガントで聴いていてホントに気持ちが良い。安心しきって音楽にどっぷり浸れる。