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2012年1月3日まで利用していたはてなダイアリーの過去記事です。

カラヤンの信頼性とアルバン・ベルク弦楽四重奏団

 カラヤンベルリン・フィルが発表した録音は「どの演奏を聴くか迷ったら、とりあえず一枚目にカラヤンベルリン・フィル盤を買っておけ」と言われるほどの絶対的な信頼性を持っていた(カラヤンが亡くなってから20年近く経っているけれど、そういう評価のされ方は未だに残っている、と思う)。
 このようなことを言うとアンチ・カラヤン派の方がお怒りになるかもしれない。が、私は「とりあえずカラヤン」という選択も間違っていないように思う。何故なら、カラヤンの残した録音には、退屈なものが(結構たくさん)あるけれど、美しくない演奏は一枚もないからだ。クラシック・ファンのなかには「強烈なアンチ・カラヤン」派と「指揮者と言えばカラヤンぐらいしかし知らない」派がいるけれど、「熱烈なカラヤン信奉者」というのは少ない――にもかかわらず、カラヤンの演奏が信頼されているのには、彼の演奏の手堅い美しさが起因しているようにも思う。
 室内楽の分野では、アルバン・ベルク弦楽四重奏団が「カラヤンベルリン・フィル」のような信頼のされ方をしている。1970年に結成され、30年以上も「世界最高峰の弦楽四重奏団」のひとつとして活躍してきた彼らの演奏は、実に技術が高く、そしてどれも美しい――しかし、その美しさの種類はカラヤンとは間逆で「虚飾が全くないことによって構築された美しさ」である。こういう美しさは、ベートーヴェンの後期の弦楽四重奏曲において相性良く発揮されている。

 そのなかでもこの《大フーガ》が、素晴らしい。1989年のこの映像は彼らの「黄金時代」を捉えている。
 ここで演奏しているヴィオラ奏者のトーマス・カクシュカが一昨年亡くなってから、その後に彼の弟子であったイザベル・カリシウスという女性が加入。そしてつい先日、彼らは2008年に解散することを突然に発表した。解散の理由は明らかにされていないのだが、大変残念なことである。
 こういう風に「解散」というのも珍しいようにも思う。オリジナルのメンバーがひとりしか残っていないのに、ボロディン弦楽四重奏団は活動を続けているし、オリジナルメンバーが誰も残っていない弦楽四重奏団も結構あるはずだ。しかし、解散によって「アルバン・ベルク弦楽四重奏団」というブランドは、封印されてしまう。解散の理由には「かつてのような水準の演奏ができなくなった」というものが考えられるけれど、もしそうだとすれば、このブランドの名前がそれだけ特別だったんだろうな、という風にも思う。

ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第13番
アルバン・ベルク四重奏団 ベートーヴェン
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