宇野功芳について
新版・クラシックの名曲・名盤 (講談社現代新書)posted with amazlet on 07.10.05
宇野功芳ってどんな風に音楽を語っていたんだっけなぁ、と気になって再読してみた。クラシックを聴いている人でないと彼の名前を知っている人もいないだろうと思うので補足しておくと、宇野功芳という人は日本で最も著名なクラシック音楽評論家の一人である。
クラシックの音楽評論家に他にどんな人がいるか、というと吉田秀和とか黒田恭一とかがいるんだけれども、宇野功芳が彼らと他の人と非常に異なっているのは「強烈なアンチが存在する」っていうことなんだと思う。それは宇野が揶揄やパロディを生むぐらい個性的な表現をしたり、自分の趣味に合わない演奏を徹底的にこき下ろすことに原因があるのだろうが、私としてはその偏屈さが結構好きだったりする。
僕にいわせれば、たった一言で終わりである。「メータのブルックナーなど聴きに行く方がわるい」。知らなかった、とは言ってほしくない。ブルックナーを愛する者は、そのくらいは知らなくてはだめだ。
いやー、これは素晴らしい名言ですよね。「俺の好きな音楽は全部メタル」(伊藤正則)に並ぶ、日本音楽評論史に残る名言。彼らに比べたら、小林秀雄なんかなんと弱々しいことか!何が「涙は追いつけない」だっつーの!
話が脱線しまくったけれども、宇野の本を久しぶりに読んだら案外マトモでびっくりしたのである。といっても、彼の趣味の話ではない。指揮者ではフルトヴェングラー、トスカニーニ、ムラヴィンスキー、クナッパーツブッシュを推薦するところなど「さすがにもう古すぎるだろう……」と思ってしまう。ムラヴィンスキーだって70年代になっても酷い録音しか残ってないんだから(ソ連の録音技術って結構酷いのである)、彼の薦めでCDを買い集めていったらヒシヒシというノイズだらけのCDコレクションができあがってしまう。
マトモなのは「どの演奏が良い」っていう推薦じゃなくて、「この指揮者、僕実は、生で聴いたんだけどねー」っていう実況話。これが結構生々しく伝えられていて、読んでいて昂揚を覚えてしまうぐらい面白かった。ムラヴィンスキーのライヴに関しての文章は何年か前にたくさん来日ライヴの音源が発売されたから「ああ、たしかかにすごいかったよな、あれ」とうなづくところがあるし、また、知らない/聴いたことがないモントゥーのブラームスのところも「これが生で聴けたら幸せだろうな」と思った。なんかそういう生き生きした文章を読むのって楽しい。