生涯を語ることの不可能性
トリストラム・シャンディ 下 岩波文庫 赤 212-3posted with amazlet on 06.11.12
結局最後までトリストラム・シャンディの生涯はほとんど語られることなく小説は閉じられる(しかもダジャレ……)。そこで、語り手が自分の生涯を語りつくすことってそもそも不可能だよなぁ、とハッと気がついた。「人間主体は死をもって即自存在へと完成させられる」…と実存主義的な言葉を持ち出すまでもなく、語り手がそこで生きている、という事実は語っている間にも、語るべき「生涯」が生産されているというわけで、語り手が自分自身の生涯を語りつくすことは永久に不可能なわけである。
でも、別にそういうことは一切小説には書いていなくて、相変わらず脱線ばかりが繰り広げられるばかりだ。読んでいる自分が馬鹿みたい思えてくる小説には違いない。
こういう変な小説が読めるのは、幸せだ。