sekibang 1.0

2012年1月3日まで利用していたはてなダイアリーの過去記事です。

板尾創路のねじれ

 『ダウンタウンのごっつええ感じ』では「板尾係長」シリーズが無性に好きだったのだが、板尾創路の本当の凄さ(というか魅力)にひきこまれていったのはごく最近に「シンガー板尾」のコントを確認してから。あの佇まいとかも良いですよね。かなり好きな芸人さんだったのだけれど、今ひとつ「なんであんなに面白いんだろう……」というのがよく分からないでいたところに、一つの光明が現れた。『板尾日記』――2005年の板尾創路の日記の出版である。


 もう少しエッセイ的にまとまりある内容かと思ったら本当にガチな日記で「あとがき」すらないシンプルさが素敵で、板尾さんが感じたことはいちいち面白い。日記を読んでいると、ものすごく笑いに貪欲で勉強熱心なことも分かる。あとこの人の場合、「日常の雑感」が全て笑いと繋がっている感じがする。3月20日の日記にある「阿藤快ひとり芝居」の企画の話(『阿藤快ひとり芝居』なのにオーディションが開かれ、しかも本人が落ちる…などのフェイクドキュメント)など、XTCみたいな「ねじれ感」というか。本当の意味のシュールレアリスティックな笑いがあります。「現実のねじれ」から笑いを生み出す、って松本人志のコントにもたくさんあるけれど、松本さんの場合はものすごく現実に何かを足していくその「過剰さ」が面白さなんだろう。対して、板尾さんの場合、ギリギリまで削ぎ落としていくことが笑いに繋がっている感じがする。


 あと特別収録の「傘」という「歌詞」がびっくりするぐらい良い。「萩原朔太郎冷やし中華を食べながら穏やかな気持ちで書いた」みたいな不気味さと「普通の人」っぽい感性が同居した名作である。タレント本とか久しぶりに読んだけど、友達に配って回りたいぐらい良い本でした。