読んでいるうちに悲しくなった
JAZZ LEGENDS―ダウン・ビート・アンソロジーposted with amazlet on 06.08.13
創刊から70年あまりアメリカのジャズを伝え続けている音楽雑誌、『Down Beat』の膨大な記事の中から「最高のものを精選した」本。これが訳出されたおかげで割と現在取り組んでいる研究がスムーズに進んだので助かった!むっちゃセコハン・データだけど…国内で『Down Beat』所蔵している図書館なんてないしなぁ…、ということで頼るしかないのである(やる気が足りない)。とか、言いつつも原文と照らし合わせなくても分かる翻訳ミスがあったり*1、音楽用語の訳注が思いっきり間違っていたり*2、細かいところが気になってしまった。ごめん。
一言で言ってしまうと「菊地成孔関連のジャズ本の方が4倍ぐらい面白い」ので税抜4600円も出して買う必要は全くない。「最高のものを精選した」と謳う割りにどうでも良い記事が結構あったりしてね…(その『どうでも良さ』をわざわざ語っている、という事実は私の研究にとって大事だったりするんだけど)。読んでいて悲しくなるのは、70年代を境にしてそういった「クズ記事」がどんどん増えていってること。特に80年代、90年代の記事からの抜粋はほぼ読むところがない*3。面白いのは「やっぱり50年代、60年代だったのだなぁ」とか思ってしまった。特にフリー・ジャズの波がやって来たあたりはすごく刺激的である。ただ、オーネット・コールマンの記事しかないのはどうしたことか。60年代の冒頭で「フリー・ジャズの時代が…」と言いつつ、ドルフィーもアイラーもないのはおかしいだろう、と。
それとこれはライターにもよるのだろうけど、年代が現代に近づくにつれて装飾的な表現がどんどん大げさになっていったりするのも面白かったりする。正直、アドルノぐらい伝わらない表現もあるぞ。
個人的に一番の発見だったのはチャールズ・ミンガスが自らの音楽論を書いた記事。「4/4拍子のスウィングを12/8拍子で正確に書けば、クラシックのヴァイオリン弾きだってスウィングができるはずだ!」という主旨なのだけれど、この「楽譜に音楽を正確に書き残す」っていう考え方が、ミンガスと他のミュージシャンと全く別格の存在であることを示しているように思った。このミンガスの方法論ってものすごく西洋の伝統的な音楽観に接近している。実際のミンガスの楽譜がどうだったか分からないけれど、とてもこれは重要なことなんじゃなかろーか。何となくミンガスを避けてきたけれど聴いてみようなんて思った(ドルフィーもいたし)。