sekibang 1.0

2012年1月3日まで利用していたはてなダイアリーの過去記事です。

Youtubeで鑑賞するヒナステラ


 20世紀前半のフランスを代表するピアニスト、アルフレッド・コルトーの動画を探していたのですが、あまりに古い人のせいか見つかりませんでした。代わりに出てきたのがエコールノルマル音楽院(コルトーが設立した学校)にあるホール、サル・コルトーで演奏されたアルベルト・ヒナステラのピアノ・ソナタ。初めて聴きましたがとんでもない曲だったので挙げておきます。バッキバキに凶悪な超絶技巧(楽譜を見るまでもなく真っ黒になっているのが予想できる)、押し迫ってくるようなリズム(しかも変拍子!)で、聴いたら2、3日ピアノを聴きたくなくなるような曲ですね。リゲティの《エチュード》と同じように「ピアノ版ドリルンベース」と称されるべきかと思われます(嘘)。

 ヒナステラといえば「アルゼンチンのバルトーク*1」とも形容され、北欧だの南米だのといったクラシック音楽における秘境で活躍した作曲家たちを敬愛する方々には広く愛されておりますが、特徴的なのは変拍子と突き刺さるような不協和音。アメリカで作曲を学んだせいもあるのでしょうか、派手でダイナミックな作風です。70年代にはキース・エマーソンによって取り上げられプログレの人にも人気です。↑の動画では《クレオール・ダンス》という作品をメタリカとか好きそうなお兄さんが弾いています。

 あとヒナステラはどうやら撥弦楽器に愛着を寄せていたようです。ハープのために協奏曲を書いたりなど割と珍しい曲を書いていますね。もちろん世界中で広く愛される撥弦楽器界の大メジャーであるギターのためにも作品を残しています。↑は彼が書いた《ギターのためのソナタ》全曲。最初は穏やかな曲調で「お、これは哀愁が漂っていて南米的な叙情性が…」などとアゴヒゲを撫でながら思わされるのですが、曲が進行するにつれヒートアップしていき、結局ラストはバーバリックな世界へと没入してしまうのがカッコ良いですね。あと、ナットより上にある弦を弾く特殊奏法がありますが、これヴァンヘイレンもやってたなぁ、などと思いました。どうでも良いですが。

 ヒナステラで私が一番好きなのはピアノ協奏曲だったりするんですけれど。特に第一番は20世紀以前の有名なピアノ曲から数々の引用がある(ように聴こえる、似てるだけかも)ので面白く、しかし基本的には常にピアニストは忙しそうな感じ。弾き終わったらピアノの調律がかなりずれてしまいそう…そんなことはないか…。一言だけ最後に言わせてもらうと「アルゼンチンはタンゴと音響派の国ではない」――そう肝に銘じておくことは大切です。

*1:本当はかなり違うんだけど…