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2012年1月3日まで利用していたはてなダイアリーの過去記事です。

落語のエクリチュール

古典落語 志ん生集
古典落語 志ん生集
posted with amazlet on 06.07.07
古今亭 志ん生 飯島 友治
筑摩書房 (1989/09)
売り上げランキング: 73,548

 10年以上前に一度行ったきり寄席を観に行く機会は無かったのだが、日本の芸能に興味を持ち始めたので古今亭志ん生の『古典落語』を「読んでみた」。よみはじめてすぐにちょっと違和感を感じたのは、当たり前のことなんだけれど「ここからは音声が消失している」ということ。「ああ、これはバルトークの採譜したハンガリー民謡の楽譜みたいだ」と思った。様々な仮名の用法を用いて、なんとかニュアンスを文字化する試みがページ上で繰り返されているんだけれども、パッと見は現代文学のよう。「…ちょっと……もし…お父上……屑屋さんがまいりました」――まるでセリーヌ


 とても面白くてクスクスと笑いが吹き上がってくるのを抑えるのが必死。この本に収録されているのは廓話(くるわばなし。吉原とか遊廓周辺のお話)が多いんだけれど、人情物でジンとさせられるものもあり良い。江戸の町人文化についても触れられるのだけれど、私はどちらかといえばお侍さんがでてきて人情が交錯して面白くなっちゃうのが好き。だからベストは「井戸の茶碗」。これはお侍同士の潔白な精神がぶつかり合う良い話。過剰な生真面目さの面白さ、というか。何につけても「過剰なもののおかしみ」というのはある気がする。あんまり関係ないけれど、志賀直哉の『赤西蠣太』を思い出した。


 Youtubeで探したらちょうど志ん生の映像が出てきた*1。この映像の「風呂敷」も本に収録されていて、大変笑わせてもらった。映像を観て、読んだものが肉付けされた感じ。電車の中で読んではいけない。