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2012年1月3日まで利用していたはてなダイアリーの過去記事です。

スンジュール・シソコ/グリオの王

グリオの王/スンジュール・シソコ〜西アフリカ竪琴“コラ”の至芸
スンジュル・シソコ マーハワ・コヤテ
ビクターエンタテインメント (2000-07-05)
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民族音楽のCDを聴いていて何が楽しいのかといえば、実際それを聴いてみるまではどんな音楽かまったく予想がつかない点で、それはもちろん自分がそうした音楽に対して無知であることに由来するのだが、それなりに長い年月、音楽を趣味で聴いているとまったく知らないモノと出会う機会もなくなってくるから、そういうのは結構貴重なイベントになってくる。なので図書館で民族音楽のCDを借りるときも、できるだけ知らない国・地域のものを借りることが多い。最近また「これは!」という出会いがあった。それはセネガルの「コラ」というハープのような楽器を使った音楽で、演奏しているスンジュール・シソコ(Sunjul Cissoko)という人は、その国の音楽界では神格化された存在であったらしい。録音されたのは1990年、当時70歳だったスンジュール・シソコが来日した際にスタジオで収録されたものだそうだが、調べてもこの人がまだ存命かどうかが分からない。マリのコラ奏者にバラケ・シソコという人がいて近々来日するということは分かったのだが、この人がスンジュール・シソコと関係があるかどうかも不明である。とにかく情報が少ないのだが、その情報の少なさがちょっと異様なものに思われるほど、音楽はポップで、聴いていると強張った気持ちがほぐれてくる。

このコードの柔らかいイメージは、ペンギン・カフェ・オーケストラや、ララージの音楽にも通ずる。セネガルだけでなくマリ、ギニアといった西アフリカ一帯にはこうした楽器を演奏しながら、伝説や歴史的な王様を讃える歌を語り継ぐグリオという職業があって、スンジュール・シソコはその末裔だった。昔は完全に世襲制で、コラもグリオの家系でなければ触れてはならない神聖なものだったそう。そうした文化は現代にはいると徐々に変化していき、今ではコラを一般向けに教える学校もあるのだとか。スンジュール・シソコはオーセンティックな伝統の継承者として最後の世代でもあり、変容する文化を見つめてきた生き証人みたいな存在だった。今、生きているかどうかわからないけども、こうしてそういう人の記録が残されていて、それに触れられることはとても幸福なことだと思う。このアルバムには、スンジュール・シソコの3番目の奥さん、マーハヤ・コヤテも歌手で参加している(写真を見る限り、かなりの歳の差カップルで、そういうのも《伝統文化の人》という感じがする)。この人の声もまた素晴らしい。