sekibang 1.0

2012年1月3日まで利用していたはてなダイアリーの過去記事です。

これはスゴいと叫びたくなる民族音楽

毎週末の図書館通いで借りるCD(一度に3枚まで借りられる)のジャンルが、民族音楽・落語・古楽、とあまりに雑多なセレクトに定まりつつある今日この頃。図書館には日本ビクターによる「JVC WORLD SOUND」という民族音楽のシリーズが一通りあるんだけれど、本日はそのシリーズからこれは! と思ったものを紹介していきたい。まずは『法悦のカッワーリー』というものすごい邦題がつけられたアルバム。これにはパキスタンスーフィー歌謡、カッワーリー(タブラやオルガンにあわせて、良い声のオッサンがイスラーム神秘詩を歌う音楽)の第一人者、ヌスラット・ファテ・アリー・ハーンの演奏が収録されている。カッワーリーは即興的に展開していく音楽で、この徐々に盛り上がっていく様子はほとんど聴くドラッグ体験(というか、元々そういう音楽なのかもしれないが……)と言っても良いのではないか。ミニマル・ミュージックみたいに繰り返されるタブラが突然火がついたように打ち鳴らされる瞬間などかなりテンションがアガる。ヌスラット・ファテ・アリー・ハーンはすでに故人だが、これを生で観ていた人は「大変なものを見てしまった……」と愕然としたに違いない。録音は1987年。時代が後のレイヴ・カルチャーが本格的に導入された世であれば、一層熱狂的に受け入れられたに違いない。

ヌスラット・ファテ・アリー・ハーンの御姿が崇められる映像。ステージの左側にいるジャバ・ザ・ハット風に肥満体をしているのが御大。

続いて『密林のポリフォニー』と題された(基本的にこのシリーズ、こうしたヘヴィメタの日本盤の帯に書いてあるキャッチコピーみたいなタイトルがつけられている)ピグミーたちの音楽。コンゴ共和国のイトゥリ州というところにあるジャングルに住むピグミーの集落に日本大学文化人類学研究チームと共同でビクターのスタッフが乗り込み現地採取した大変貴重な録音で、音楽の背景には鳥や虫の鳴き声が入り込み大変な臨場感を醸し出している一枚。声とカリンバによって奏でられるポリリズムは、否応なく80年代キング・クリムゾンを想起させ(というか、こっちが本物だが)「赤道直下には音楽的な霊感を与えるサムシングがあるのでは……」と思うほどに素晴らしい。録音スタッフの苦労が感動的に報われているように思う。

サカルトベロの奇蹟のポリフォニー / 東西の陸橋カフカズの合唱
民族音楽 メスティアの男声合唱団 マラハゼの男声(合) テラビ国立音楽学校女性合唱団
ビクターエンタテインメント (2000-07-05)
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そして『奇蹟のポリフォニー』。こちらはこのグルジアの合唱音楽。CDの解説を紐解くとピグミーの音楽と並べられ「神技的な奇蹟のポリフォニー」と称されている(よく見たらこの解説、芸能山城組の山城称二じゃないか!)のだが、その大げさな形容に相応しい。女声合唱はどこまでも澄んで天上的であり、男声合唱はものすごく力強い。和声はときおり古楽っぽい感じになるのだが、声部が複雑に入り組むところもあり、西ヨーロッパの音楽と同じ源流を持ちながら独特な進化を遂げてしまった感がある。いろんなタイプの音楽があるようだけれども、ノンビブラートのドローンの上で浪々と歌われてる歌曲など、これはどこの世界の音楽なのだろう……という「この世のものでない雰囲気」が強い。