アリストテレス『動物誌』(上)
昨年に引き続き、アリストテレス強化期間。アリストテレスの元祖動物大百科的書物『動物誌』の上巻を読みました。とても面白い! 動物の分類方法の話から始まり、人体の外部についての記述、そして内部についての記述、そのほかの動物の外部についての記述、内部についての記述……と順序よく並び、さまざまな動物の生殖行動についての記述で上巻は終わります。読んでいるとすごく組織だって書かれるように思われてきて、これもまたアリストテレスに特徴的な世界記述の方法なのだなあ、という風に感心しました。自分が見て確かめたことや、どこかで聞いた「そんなの絶対ウソでしょ!」みたいな話まで、さまざまな話をアリストテレスは集めて、組織化していく。微細な記述の積み重ねによって、この書物のなかに、動物たちの世界がひとつの体系として収容されていくような趣がありました。
ただ、どの記述も満遍なく取り揃えられているわけではなく、なかには「ゾウの舌は非常に小さくて奥にあるので、見るのは一苦労である」(第2巻第6章 P.74)と一言で終わっているものもある。でも、こうしたまばらさもとても興味深いです。この箇所の周辺はちょうどいろんな動物の口のなかとか、歯についての記述が並んでいるのですが「いや、この流れだとゾウの舌についても書かなきゃいけないな……でも、あんまり書くことないや……」とアリストテレスが困って書いていたのでは、などと想像してしまう。
科学の発展によって本書に書かれた知識は否定されたりする部分もあります。でも、なかにはアリストテレスの時代から謎のままの生物もいる。それがウナギです。この美味しい魚類の生態がいまだ謎につつまれていることはよく知られていますが、その謎はアリストテレスの時代から続いていたことが本書を読むと分かります。どういう風にウナギが生まれてくるのかわからないから彼は「ウナギは魚で唯一自然発生する」と説明したりしている。アリストテレスは前4世紀の人物ですから、ざっと2400年ぐらいウナギは謎の生物のままであるわけです。なんかすごいな、ウナギ、と驚いてしまいます。
あと、驚いたのは「シカの頭の中には蛆がいる」という記述でした。これを最初に読んだときは「またまた〜、なんか勘違いしてるんでしょ〜」と思ったんですが、さにあらず。シカバエというシカの鼻のなかに卵を産み付けて育つハエが実際にいるんだって(成長するとクシャミと一緒にシカの体内から出てくるらしい)。こうした「それがホントのことなのかどうか」については、丁寧な訳注にも記述されています。読むと動物マメ知識がどんどん増えていくのも楽しいです。下巻はしばらくしたら読み始めようと思います。