sekibang 1.0

2012年1月3日まで利用していたはてなダイアリーの過去記事です。

ドミニク・チータム『「くまのプーさん」を英語で読み直す』

「くまのプーさん」を英語で読み直す (NHKブックス)
ドミニク・チータム 小林 章夫 Dominic Cheetham
NHK出版
売り上げランキング: 20967

 "Winnie-the-Pooh"を原書で読むのと平行して、こんな本を読んでいた。なんでも「『くまのプーさん』の世界には、豊潤なるイギリスの文化が溢れている。プーを読むことで、英語を母語とする人々と同じ文化を共有することが可能になり、同時に、イギリス文化の一部となることができると言えるだろう。幼い頃にプーの世界で育ったイギリス人の著者が、原文の英語が持つ豊かな表現力などを紹介しながら、プーの世界にどのような文化が息づいているのかを紹介していく」だそうで、サブテクストにはとても良さそうだった。しかし、これは誇大広告的な感じであって、Poohに含まれたイギリス文化の紹介はあまり多くはない。どちらかと言えば作者であるA. A. ミルンがリズミカルな文章を書くセンスにどれほど長けていた詩人であったか、といったところに焦点が当てられているように思われる。この文章のどこが優れているのか、という解説のほうが多いのだ。しかし、原書を読み終えてからPooh本文の解説を見れば、それが実に共感できるものだ。


 全体は三部に分かれており、第一部はPoohが書かれた背景と作者や登場人物への解説となる。その後の第二部と第三部はそれぞれ、Poohの物語である2冊の本、"Winnie-the-Pooh"、"The House At Pooh Corner"の各エピソードを詳細にみていっている。第一部は原書を読む前に読んでもかまわない。しかし、第二部と第三部は原書を読み終えてから読んだほうが良いだろう(だから"Pooh Corner"を読んでいない私はまだ第三部を読んでいない)。ここでは「この文章が英語的になぜ面白いのか」という解説がおこなわれる。これはなぜ面白いのか、という解説ほど野暮なものはないけれども、すでに原書で「笑えてしまった部分」についての解説であれば「ああ、そこはやっぱり笑うよね」という感じで、まるで友人と「あれは良いものだよね」という感想を言い合うみたいに読めてしまう。そこが楽しい――これは解説なんかなくてもPoohは笑えるし、楽しい(英語のReading教材には最高だ、ということになるかもしれない)ことを端的に意味しているようにも思う。イギリス文化を知らなくても、Poohは読めるのだ。ああ、はやく"Pooh Corner"も読んでしまって、この本の残りの部分も読んでしまいたい……!


追記:なぜか本書ではオウルの名前が「フクロウ」と訳されてしまっている。翻訳者はディズニーのアニメをチェックしなかったのだろうか……?