sekibang 1.0

2012年1月3日まで利用していたはてなダイアリーの過去記事です。

松本零士『クイーンエメラルダス』

 この漫画を読み、松本零士が「ロマンSF漫画の大家」であったことを知る。「やたらめったら自作がらみの訴訟を起こす人」というだけではなかったのだ。物語は自作の宇宙船で宇宙の旅にでようとする少年と、宇宙最強の船「クイーンエメラルダス」に乗る謎の女、エメラルダスとの出会いから始まる。エメラルダスの旅の目的は誰も知らない。少年が宇宙を目指す理由も、とりあえず伏せられたままだ。少年の旅は行き当たりばったりのようにも見える。いわば「でも、やるんだよ」の精神しかない。そこにエメラルダスは共感を覚え、少年の手助けをしようとする。『銀河鉄道999』におけるメーテルは、鉄郎にとって「究極の母性」であったが、ここでのエメラルダスは「よき理解者」であり、ある種「究極の恋人」として描かれているように思われる。


 しかし、物語のなかで最も素晴らしいのは、そこで描かれた各種の挫折である。少年が旅を続けるなかで、さまざまな挫折した人々(少年のように旅をすることができなかった人々)と出会うことになる。それらは皆、男性だ。ここに「男は皆大志を抱かなくてはならない」というテーマが見え隠れする。しかしながら、それを実現できるのはごくわずかしかいない。実現できなかった男たちは少年に自分の夢を託したり、生き方を授けたりしようとする。ここにまた別な共感が生まれる。ここがすごく泣ける。とくに「完全な宇宙船」を設計しようとする科学者の少年と、主人公の少年の出会いの場面は熱く美しい。

こんな大研究所なんておれにはオモチャにしか見えないよ
設計図だけの宇宙船なんてただの絵だ
こんなものじゃ宇宙はとべない
宇宙の海はほんものだ あそこにほんとうにあるんだぞ
絵にかいた船ではとぶことはできないよ
だがおれの船はあそこをとべるぞ ちがうかラメール?