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2012年1月3日まで利用していたはてなダイアリーの過去記事です。

アントニオ猪木『風車の如く アントニオ猪木の人生相談』

風車の如く アントニオ猪木の人生相談
アントニオ 猪木
集英社
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 GWに何をするかといえば、音楽を聴いたり、本を読んだり、駅前にある美味しそうなパン屋で買ってきたバゲットを焼きもせずかぶりついてよく噛んで食べたり……とひどく地味に生活している。あと近所の散歩をして自分が住んでいるところがいかに傾斜の多い土地か、というのを実感したりした。あと美容室にも行った(この休みの間に結納をやらなくてはいけない。中途半端な髪型では向こうのお父さんに怒られてしまう)。そんで美容室でパーマをかけ直したりした。私の髪は美容師が驚くほど強く、パーマがかかりにくい。人の二倍ぐらい時間がかかるそうである。その間は、暇なのでたくさん雑誌を読む。普段は読まない雑誌をたくさん。『Smart』、『CHOKiCHOKi』などファッション雑誌も(世の中にはいろんなファッションがあり、勉強になった)。


 『BRUTUS』も読んだ。「真似のできない仕事術」特集。インタビューに登場していたのは、読んだことないけどいけすかない漫画家や、知らないし興味もないデザイナーたち。そのなかにはアントニオ猪木が紛れていた。元プロレスラーであり元参議院議員である彼が過去に取り組んだバイオ・エタノール事業やら、かなり前から取り組んでいる電力事業の話など。内容はあまり憶えていないのだが、それで彼が出していた人生相談本が積ん読の山に入っていたことを思い出して読み始めた。昔『プレイボーイ』誌で連載していたものをまとめた単行本だ。なにか相談したいようなことが自分のなかにあったわけではない。アントニオ猪木の言説、というものに触れたくなったのである。


 私が初めて彼の試合を観たのは98年の引退試合だったと思う(テレビ観戦だったが)。おそらくは小川直也とおこなう目論見であったはずの彼の引退試合ドン・フライが相手で、最後は猪木がグランド・コブラツイストで勝った。なんかそのときから、猪木という人間に対して興味を抱き続けている気がする。98年だから12年前。12年前というと、13歳か。書いていて気がついたけれど、人生の半分ぐらい猪木に興味を持ち続けている……。彼が猪木寛至名義で執筆した『アントニオ猪木自伝』も読んだ。


 この人生相談本を読み進めるなかで考えていたのは、なぜ、自分はここまでこの人に興味をいだいているのだろう? ということだった。そしてそれは、彼が極めて「錬金術師的な人物」だったからではないか、と思う。倍賞美津子にとり憑いた平家の落武者の霊と闘ったり、無限発電機関という得体の知れない素晴らしいものに投資をおこなったり、彼の経歴にはカルダーノと比べても遜色のない多彩なエピソードが並べられている。スウェーデンボルグみたいでもある。私的には、順番は逆でアントニオ猪木が先で、カルダーノスウェーデンボルグがあとだ。こういう「普通の人とは違った論理で動いていそうな人」に自分は惹かれてきたのだろう。


 しかし、そういう「違った論理で動いていそうな人」が、自分の元に寄せられてくる相談に、どのように答えているかといえば、結構普通なことしか言っていない。だが、そこがまた面白かったりする。帰結は常識的なのだが、やはりそこまでに至る道筋がちょっと違う。それがある種のご託宣めいた雰囲気を醸し出しているのだろうか。はたから見れば、神秘と常識とが奇妙に同居しているように思えるのだが、それもまた中世の錬金術師に通ずるものがなくはない。感動的なほどの名言も数多くあり、これはとても面白い本だった。

子宮に「育ちがいい、悪い」なんて話、聞いたことねぇもん
(『育ちがいい彼女はフェラチオしてくれません』という相談に対して)

 最高だ。