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2012年1月3日まで利用していたはてなダイアリーの過去記事です。

ヘルムート・ラッヘンマン《グラン・トルソ》の解説

Helmut Lachenmann: Grido; Reigen seliger Geister; Gran Torso

Kairos (2008-01-14)
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 《Grido》に続いて*1ラッヘンマンが最初に書いた弦楽四重奏曲《Gran Torso》の作曲家自身による解説を日本語に訳した。ブックレットは《Grido》、《Reigen seliger Geister》、《Gran Torso》の順になっているのだが、順番を間違えて訳してしまっていた。

《Gran Torso》
 《Gran Torso》は1971年から1972年にかけて作曲され、そののち1978年に改訂版が出されています。その間、《Air》、《Kontrakadenz》、《Pression》そして《Klangshatten》といった作品において、私は一連の伝統からの脱却を目指して「素材の概念化」の模索を行っていました。そこでは、その作品自体を聞かせるというよりも、技巧や楽器の構造、あるいは演奏者の能力のなかから、新しい音の創造をおこない、それらの構造的かつ形式的な階層関係を導くことが目指されていました。そのような「脱却の試み」が単純に成功した、といえないことは明らかです――それらは、予定調和的に伝統が具体化している「楽器自体が持つ音」に反抗を試んでいたわけですが。特殊技法はその反抗的な行為に含まれたとても大きな矛盾の氷山の一角に過ぎません。なにしろ、演奏家自身は反抗の対象となるブルジョワ的な芸術家なのですから。しかし、そのような議論の背景では、同時に、従来的な美への異議申し立てがおこなわれているのです。もしあなたがそのような美を望んでいるならば、このような作品で満足することはできないでしょう。この「トルソ」と呼ばれる作品が、構造的な領域において、明確に新たな音楽の次元を切り開く意味合いを含んでいる、という言い切れる理由はそこにあります。あらゆる実際のコンサートで、演奏に関わる現実的な限界を崩壊させる可能性がここにはあるのです――もしかしたらそれはいやいやながら解放されるのかもしれませんが……。《Gran Torso》に含まれた意味はそのようなものです。


※ 《Gran Torso》は、Italo GomezとSocieta Cameristica Italianaに献呈された。ブレーメン放送局の委嘱作品。世界初演は1972年6月5日、ブレーメンでSocieta Cameristica Italianaによる(改訂版は1978年4月23日にベルン弦楽四重奏団によって初演)。

 《Reigen seliger Geister》についてはまた今度。それを訳したらMartin Kalteneckerによる楽曲解説も訳す予定です(これが結構長いので、やる気次第)。



 《Gran Torso》の音源はこちら。Youtube、なんでもあるな……。