松平敬/MONO=POLI
MONO=POLI (モノ=ポリ)posted with amazlet at 10.02.28
新譜。(おそらく)日本最強のシュトックハウゼンのスペシャリストであり、近年は高木正勝のライヴにも参加でも注目を浴びている声楽家、松平敬*1の初ソロ・アルバムを聴く。これはホントにすごかった。なにしろ、「本当にソロ・アルバム」なのだから。本来バリトンである松平が「バスからソプラノに至る全声部が、私の声の多重録音のみによって演奏されている」というのだから……(女声声部はファルセットを駆使!)。そのうえ、録音後の編集からブックレット作成まで自分でおこなったとあり、もはや大爆笑しながら脱帽するほかない。ポール・マッカートニーやプリンス、トッド・ラングレン、そして谷啓でさえこんなに一人でなんでもやらないし、できないだろう。こうした驚きと同時に、このように一人でアルバムが作れてしまう昨今の音楽環境についても感慨深いものがある。
アルバムには、「カノン」という形式をテーマにして、13世紀から21世紀という700年間におよぶ長いスパンのなかから声楽作品が選ばれ収録されている。松平自身による解説にもあるとおり、その並びはもまたカノンとなっている。13世紀に書かれたという現存する最古のカノンに始まり、中心には松平自身による2009年の作品が置かれ、そこからまた時代を遡っていき、14世紀まで戻っていく反行カノンなのである。Youtubeには、またもや松平自身によって制作されたPVがアップロードされているので是非聴いてほしい(↓)。
最古のカノン《夏は来たりぬ》の聴いていてニコニコしたくなる朗らかさ、リゲティ、ブライアーズ、シェーンベルクのぞっとするような美しさなど非常に多彩である。20世紀の作曲家では、ベリオやケージの声のための作品も愉しい。それにしてもなんと調和が行き届いた素敵なアルバムなのであろうか。同一人物の声が重ねられているから「当たり前」なのかもしれないが、改めて考えてみるとこれは驚異的なことである。たくさんの人に聴いてもらいたい、と強く願った。