sekibang 1.0

2012年1月3日まで利用していたはてなダイアリーの過去記事です。

諸星大二郎『妖怪ハンター 天の巻』

妖怪ハンター 天の巻 (集英社文庫)
諸星 大二郎
集英社
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 このところ集中的に読んでいた諸星大二郎の『妖怪ハンター』シリーズですが、こちらの『天の巻』が一番面白かったです。生命の木、人類誕生の源と信じられていた「生命の木」をめぐる一大サーガ。飛行機事故から奇跡(奇跡的にではない)によって生還した兄妹も、後に主人公、稗田の協力者となっていくのですが、このあたりのキャラクター造詣も良かったです。とくに妹の方は、途中で超能力に目覚めてしまい、大活躍。年齢不詳の民俗学者×超能力少女(前髪パッツンの美少女)という組み合わせは、萌えるポイントまで押さえています。恐ろしいぜ……諸星大二郎……。


 こうして諸星大二郎の漫画を読んでいると、彼が書くストーリーは「神話を反復すること」によって成立していることに気がつきます。代表作である『暗黒神話』もそうですし、『妖怪ハンター』シリーズもそうです。現代において、神話のストーリーをなぞることによって、なにかが起きてしまう。これは神話を再生産するのと同時に、現実を神話に書き換えることでもあり、神話を現実に書き換えることでもあるでしょう。これによって、神話の世界と現実の世界とが地続きなものであることを錯覚させられるのですね。


 以前に『水の巻』をブログで取り上げた際に*1、諸星の仕事の比較対象として中上健次の名前を挙げましたが、むしろ、中上よりもフロイトの仕事に近いものがあるのかもしれません。ちょうどフロイトモーセの物語を、ギリシャ悲劇の物語に読み替え、ユダヤ人という人種そのものを精神分析にかけてしまったように、諸星の仕事も日本人の無意識に潜む何かを解き明かすもののように思いました。