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2012年1月3日まで利用していたはてなダイアリーの過去記事です。

諸星大二郎『妖怪ハンター 水の巻』

妖怪ハンター (水の巻) (集英社文庫―コミック版)
諸星 大二郎
集英社
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 『水の巻』は九〇年代に入ってから書かれた「稗田礼二郎シリーズ」を単行本化したもの。七作品が収録されていますが、そのうち五作品が稗田先生がサブ・キャラクターとしてしかでてこない「粟木町シリーズ」になっています。このシリーズでは渚と大島という高校生が主人公。これも『古事記』や仏教と言った日本における宗教の歴史を、神話として捉え、それを怪奇漫画として書き換えたような壮大な話です。日本をとりまく海の彼方は、まさに彼岸の世界であり、そこには現実世界とはまた違った世界が存在する。そしてこの物語では「海」を媒介として、異界からやってくる者どもがいくつも登場します。このことは、日本が異界と常につながり続けている、ということも意味しましょう。深い……。日本で・土着で・神話、といえば、すぐさま中上健次という作家を思い起こしますが、諸星大二郎の仕事が中上と類縁性を持っている、というのは言いすぎではないかもしれません。中上が描いた神話にギリシャ悲劇のモチーフを見出せるのに対して、諸星の仕事はあくまで、日本の神話に留まり続けている、という違いはあれど。