莫言『転生夢現』(下)
『転生夢現』読了。文化大革命の狂乱の真っ只中、狂気と愛憎が最高潮に達し、破壊へと結びつくところで上巻は終わっているのだが、下巻はいわば上り詰めたところから下っていくような流れをとる。毛沢東の死によって文革が中途半端な形で終焉を向え、そこから一気に人民の間の熱は冷めていく。この冷め切った状況のなかでやってくるのは、また別な混沌であるところが面白いのだが、個人的な好みが戦争的な熱のある状態の描写に傾いているため、下巻はちょっと読むのがくたびれた。
面白く読めたのは、カリスマ的指導者の死によって何もかもが一遍に変ってしまう――村の指導者になった男は汚職や権力に塗れながら成り上がろうとし(おそらくそれは革命への失望からであるのだが)、彼の前任者であった男は酒に溺れ正気を失っていく、とか――ところまでで、その後は、愛無き結婚に嫌気が差した男が若い女と不倫して……みたいな昼ドラみたいなドロドロのテンションの話が続いてしまう。この泥沼状態(このとき舞台は1990年代に入っている)がその当時の中国の状況とリンクしているのかもしれないが、よく分らない。
ただ、大規模な開放政策のなかで建物の洋風化が進んだけれど、下水設備がちゃんとしていないので大雨が降ると、汚泥で街全体が臭くなる……という描写はとても良かった。ひとつの街に異なる時間軸が共存している不可思議な状況、これもまた混沌といえば混沌なのかもしれないが、街の人々はそれが当然であるかのように振舞っているところに惹かれる。おそらく作者は「これがワシのマジックリアリズムじゃあ!」と気合を入れて書いたであろう(いい加減な推測)。
泥沼不倫劇が終幕すると第5部に入り、ここからは(あくまで小説の登場人物としての)莫言自身によって語られる。莫言の語りはかなり駆け足で、90年代末から2000年、新しいミレニアムの幕開けまでを追っていく。この第5部で、それまでの登場人物がバタバタと悲劇的な、シェイクスピアの悲劇か!ってぐらい死ぬ。その死に様が皆、ものすごく劇的なので最後にひともりあがりあるのだが、如何せん短い……。
と上巻とは打って変わって文句ばかりの感想になってしまったが、ところどころ面白い箇所はあったので、読んで良かったなぁ、と思いました(小学生みたいなまとめ)。
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