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2012年1月3日まで利用していたはてなダイアリーの過去記事です。

大井浩明のベートーヴェン全集プロジェクト

ベートーヴェンフォルテピアノのためのソナタ集 Plaudite Amici V
大井浩明
OPUS55 (2008-10-22)
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 ベートーヴェンのピアノ・ソナタについては、基本的にバックハウスが演奏した全集と、ホロヴィッツリヒテルの名演奏が残されているいくつかの曲を押さえておけば事足りてしまうんじゃないか、と思っている私だが大井浩明によって進められている「全集プロジェクト」には思わず食指が動いてしまった。何せ「ベートーヴェンが作品を作曲した当時のフォルテピアノによって演奏する」という極めて個性的な演奏である。しかも、リスト編曲による交響曲のピアノ版もすべてカヴァーするのだとか。やはり、独学でクセナキスを演奏するまでに至ったという異色のピアニストだけあって、やることが違う……。
 10月末にリリースされた全集の第1弾では、《月光》が収録されているものを一枚購入した。よく考えたら、現代のピアノではない古楽器で演奏されたベートーヴェンを聴くこと自体初めてだったのだが、この1800年頃のフォルテピアノを再現した楽器による演奏を聴くと、現代のピアノ(スタインウェイとかヤマハとかが作ってる黒くて大きいあのグランド・ピアノ)がいかに洗練された楽器であるのかが分かる。これは新鮮な体験だった。フォルテピアノは音域によってかなり音色も違って響くし、何か少し不恰好な、エレガンスに欠いた趣がある――しかし、それがベートーヴェンのイメージと合っている、と思えなくもない。
 今のところ、この「新しい響き」を楽しむ段階に留まっているのだけれども、続きが楽しみだ。