sekibang 1.0

2012年1月3日まで利用していたはてなダイアリーの過去記事です。

ヘルムート・ラッヘンマン《ヌン》

『ヌン』 シュテンツ&アンサンブル・モデルン・オーケストラ、ほか : ラッヘンマン(1935-) | HMV&BOOKS online - EMCD004
 現代音楽関連のエントリが続いているため興味がない方に「もううんざり。このブログ、アンテナからはずしちゃおうかな」と思われても仕方がないのだが、性懲りもなく現代音楽についてのエントリを書く。ルイジ・ノーノの最新録音と一緒にほかにもCDを注文していたのだが、そのなかにヘルムート・ラッヘンマンの《ヌン》という作品の録音も入っていた。こちらも発売が今年の5月でほとんど新譜と言っても良い……にも関わらず入荷に2ヶ月ほどかかってしまったのが不思議(しかも、届いたデジパックのCDケース、ブックレットが入る部分がちょっと壊れていた)。「現代音楽がどれだけ今厳しい状態におかれているのか」みたいなものをなんとなく感じてしまう。ラッヘンマンの新録音が出ても、ノーノの新録音が出てもどこにも取り上げられないし。本当に悲惨。
 演奏はアンサンブル・モデルンの2005年のライヴ録音。これがライヴ録音なのか……と驚くほどにキマりまくった演奏が素晴らしい。声楽アンサンブル、独奏トロンボーン、独奏フルート、そしてオーケストラというかなり大きな編成にもとづく作品なので、録音が残されていて良かったと思う(たしか他にも録音はあるはずだけど、以前に出ていたものは改訂前のものだろうか。この作品は1997年から1999年に書かれ、2003年に改訂がおこなわれているようだ)。ラッヘンマンのアイデアが40分超にわたって炸裂しているのが聴いていてとても楽しい。特殊奏法の嵐、嵐、嵐……で、弦楽によるハーモニクスや管楽器のフラッタータンギングが巻き起こしたパルス状の土台の上で、独奏トロンボーンとフルートが大暴れするところなど痺れてしまう。
 声楽アンサンブルのほうも、普通にテキストを発声するところなどほとんどなく「口をパクパク言わすだけ」とか「歯の隙間から息が漏れただけ」みたいな音を出す楽器として用いられている。かと思えば急に「ウ゛ェ!」とか叫んだりするので本当に面白い。次に何がおこるのか予想できず、ドキドキしながら作品を聴いてしまう。
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 当の本人は、江戸時代の人が見たら「天狗だ!」とびっくりしそうな恐ろしい顔をしているのに、こういったユニークな作品を書いているのがとても興味深い。この顔で「ピアノをギロに見たててみよう。よし、ピアノの色んな部分を擦って音を出す作品を書こう」とか考えているのかと思うと「ドイツ人ってどういう人間なんだろうな」と考え込んでしまう。