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2012年1月3日まで利用していたはてなダイアリーの過去記事です。

ヘルムート・ラッヘンマンを聴く

Kontrakadenz: Gielen / Swr.rso : ラッヘンマン(1935-) | HMV&BOOKS online - 12232KAI
 ドイツの作曲家、ヘルムート・ラッヘンマン(1935〜)の作品集を聴いた。今回購入したCDは、彼が70年代に書いた作品を収録したもの(一部改訂版を含む)。《Kontrakadenz》、《Klangshatten - mein Saitenspiel》、《Fassade》という3曲をこのCDで聴くことが出来る。曲目の翻訳が見つからないので直訳してみると《矛盾するカデンツァ》、《音の保持―私的な弦楽演奏》、《ファサード(門構え。建物を正面から見た姿を意味する言葉。関係はないが、アドルノが好んで用いたメタファーでもある)》となる――なんだか訳してしまうことで、ガッカリ感が出てしまうけれど、これらの作品群は本当に素晴らしかった。「なんでも良いから『本当に聴いたことがない音楽』が聴きたい」――そんな風に思っている方には是非とも聴いて欲しいようなそんな音楽である。
 特殊奏法によって、通常オーケストラで使用される楽器が普段とは違った表情を見せる。このことがとてもユニークに感じられるし、「これはなんの音なんだろう?」と素朴な疑問がある。《Kontrakadenz》では、テーブルの上をコインが転がるような音や、ピンポン玉が跳ねるような音が聴こえるが、それが本当は何の音なのか、CDを聴いているだけでは分からない。しかし、その分からなさが逆に強い魅力になっている気もする。一体これは何なのか?――得体の知れない音に触れたときのシンプルな驚きを覚える。面白い。やはり、ブーレーズシュトックハウゼン・ノーノ以降、所謂「ポスト・セリエル」と呼ばれる作曲家の音楽をこれからもガンガン聴いていくべきだろう、と思ってしまう。
 沈黙と言う真っ白な空間の中に、不思議な音が点描に並べられている。この旋律、というか、作品が物語を紡がずに進行していく感じは《Klangshatten-mein Saitenspiel》でとても顕著である。三台のピアノと、48の弦楽器のために書かれたこの作品では、通常それらの楽器が使用されるとき発するような長く持続する音はほぼ使用されない。鋭く短い音が、パラパラと鳴る。ピアノの鍵盤がひとつポンと響く。続いて、それとは別な位相から、弦楽器がピッチカートで音をひとつ鳴らす――その後、それを追うようにして、いくつもの弦楽器のピッチカートが聞こえる。「一斉に」という瞬間はほとんどやってこない。それらは「合奏」という概念に反するかのように設計されている。このズレが、詩的な演出にもなっている気がする。少ない音の中に、やたらと情報量が詰め込んである感じも異様だ。
 3曲の中で最もポップと言えるのは《Fasssade》だろうか。電子的に変調された声や、ホワイトノイズがカットアップのように、短い音響のなかに織り込まれていて、音の動きはダイナミックである。運動量の多さで言えば、間違いなく3曲中最も激しい。ただ、その分、凡庸、というか凄みにかけるような気がしないでもない。いや、でもすげぇ、か。
 面白かったんで、これからもラッヘンマンのCDは定期的に買い続けようと思います。買ったら/聴いたら報告するのでお付き合いくださいませ。ちなみに、ラッヘンマンさんは来年度の武満徹作曲賞の審査員だそう。今年が、スティーヴ・ライヒだったらしいので、なんか、すごい人選ですよね。