sekibang 1.0

2012年1月3日まで利用していたはてなダイアリーの過去記事です。

アフィニス文化財団が太っ腹すぎる件について

公益財団法人 アフィニス文化財団 - 日本のオーケストラと音楽家の皆さんを応援します
 先日調べものをしていて、アフィニス文化財団という団体が存在していることを知りました。この団体は、1985年にJTがポンとお金を出したことによって設立されており、日本のオーケストラの支援活動を主な活動としているそうです。コンサートの企画や、若手演奏会育成のための講習会を開催するなど現在も活動が活発に行われている模様。こういうメセナ活動って景気の動向に左右されがちですが、立派に続けられているのがすごい。まぁ、親元がJTなんで……っていうのがあるんでしょうが。
アフィニス・サウンド・レポート
 また、この団体「アフィニス・サウンド・レポート」という“音による機関誌(CD)”を定期的に発表してもいるようです。このCDがなんと無料!「ホントかよ……良いのかよ……」と半信半疑でプレゼントに応募してみましたが、ホントに無料で届きました。第34号は『日本戦後音楽史』の特集なんですが、収録作品のほぼ全てが初CD化、という感じの超貴重な内容です。以下に収録曲のリストを掲載しますが音源が貴重すぎて、おそらく聴いたことがある人、ほぼいないと思います。

鈴木博義《モノクロームとポリクローム》(1954年)
篠原眞《ソリチュード》(1961年)
黛敏郎《音楽の誕生》(1964年)
福島和夫《月魄 −つきしろ− ピアノ、ハープ、52の弦楽器と打楽器のための》(1965年)
夏田鐘甲《管弦楽のための音楽『伽藍』》(1965年)

 「黛敏郎以外ハードコア(マニアック)過ぎて名前すら聞いたことがない……」という反応が、インターネット越しにうかがい知れるようなラインナップ。自分の業績でもないのに「どうだ!」と見せびらかしたくなります。ちなみに鈴木博義・福島和夫は「実験工房」のメンバー。
 演奏は高関健/東京都交響楽団。音源は都響の「日本の戦後音楽研究」というコンサート・シリーズからのライヴで、その第1回(2003年)・第2回(2004年)のプログラムから選曲されています。ちょっと自分でもびっくりしたのですが、この演奏会どっちも生で聴いてました。第1回は黛の大作《音楽の誕生》の印象が強かったのですが、第2回はあんまり覚えてない……大井浩明さんがピアノの内部奏法をやってた姿と、池袋の東京芸術劇場大ホールが6割ぐらいしか埋まってない情景しか思い出せません。
 さきほど聴きかえして、やはり黛の《音楽の誕生》のスケールの大きさが群を抜いて素晴らしく、改めて感激いたしました。この作品は新古典主義的な作風のものではなく、トーンクラスターや微分音、あるいは管楽器のキーを動かす音などの非楽音的ノイズの導入など意欲的に新しい手法を取り込んでおり、なかなか「難解な音楽だ……」という雰囲気をかもし出しているのですが、印象的なメロディや明快なリズムといった「具体的な語り」とは一切結びつかない語法を多く用いつつ、音楽が誕生するまでの歴史を強い説得力をもって描いてしまった傑作です。黛は、やはり「黛先生」とお呼びしたくなるような感じがします。さすが題名のない音楽会!さしずめ、《音楽の誕生》は「旋律のない交響詩」といったところでしょうか。
 ちなみにこのCD、夏田作品以外、ほとんど印象的なメロディがでてきません。近年、ナクソスが邦人作曲家シリーズを続けておりますが、かのレーベルにはこのような硬派なラインナップは不可能だったでしょう。邦人作曲家、というと(特別な存在である武満を除いては)伊福部昭芥川也寸志をはじめとする「ロシア・ソ連系の作曲家の影響が色濃い人たち」が有名であり、その関係からかその「わかりやすい方面」の作曲家と「わかりにくい方面」の作曲家の間に、知名度の不均衡が生じているように思うのですが(早坂文雄とか、別にねぇ……うーん…まぁ、好きだけど……そこまで……)、このCDはそのような状況で上手くバランスをとってくれるような内容であると思います。