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2012年1月3日まで利用していたはてなダイアリーの過去記事です。

馬場靖雄『ルーマンの社会理論』

ルーマンの社会理論
ルーマンの社会理論
posted with amazlet on 07.10.19
馬場 靖雄
勁草書房 (2001/06)
売り上げランキング: 192622

 今回の再読(たぶん4回目)でようやくルーマンのホントの面白さが分かってきたような気がする。私は学生のときに社会学部にいて*1ルーマン流行ってんのかー、読んでみるかー」と思ってニクラス・ルーマンの著作に触れ始めたんだけれど「流行ってるから、やってる人が多い」のではなくて「面白いから、流行ってたんだなぁ」と今更ながらに思ってしまう。
 社会学の分析などはもっともらしいものに見えて実は他者を自己側からしか描けない――「これこれこういう現象があるんだけれども、これって実はこういう原因/理由があるんじゃないか?」という分析は、結局のところ他者への共感によってで成立し得ない。上野千鶴子はそれを「もっともらしくて、楽しいインチキ」として肯定的に評価してるんだけれども(私もインチキ好きなので、その評価には賛同している)、ルーマンという人は「そういうのはインチキだよね。でも、そうでしか描けないんだよね」というところから始まっているようにも思った。超越的な視点によって描かれる分析などあり得ない。ルーマンもまた社会システム理論という一つの観点からしか社会を描けない。そこで、もっともらしい顔をしないで様々な語彙を用いながら(分析ではなく)記述に徹した、っつーのがルーマンだったんじゃなかろーか――などと書くとルーマニ屋の人に怒られるだろうか。
 あと、この本の著者は基本的に「すごく分かり易い、明確な言葉」で文章を書いているんだけれども、少し異常なぐらい註の文章が長くて、それが全部面白いのね。で、そのなかにちょこっとだけアドルノも登場するんだけど、そのアドルノ解釈がすごく鋭いの。「私、アドルノに関する本出してます」って言う人より、ずっと明晰で、アドルノの原理的な部分を突いてる文章を書いてしまっている。こういう人に読まれてるルーマンは、幸福だなぁ、と思ってしまいます(アドルノもこのレベルで語られなくちゃいけないんじゃねーの?)。いわゆる「二次文献」で、ここまで面白い本って無いよ!
 本の内容に何一つ触れてないけど、猛烈にオススメいたします。

*1:などと書くと昔のことみたいだけれど、まだ卒業して一年も経ってない