フョードル・ドストエフスキー『悪霊』(上)
- 作者: ドストエフスキー,江川卓
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2004/12
- メディア: 文庫
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奇しくもドストエフスキーの『悪霊』を読んでいるところ。さっき上巻を読み終えたのだが、キチガイみたいな登場人物ばっかり出てきて面白い。この作家の小説を読んでいて毎回そういう風に思う。どの登場人物も性格の「ある部分」にオーバードライブがかけられていて異常である。そういう異常者たちがガチでぶつかり合って、物語の回転速度と温度を高めていく感じが面白い。
唯一マトモなのは人間模様を俯瞰し、記述している語り手のみ。しかしこの語り手も『悪霊』ではちょっと変わった立ち位置を持っているような気がする。というのも部分によって「舞台に参与している『私』が語」ったり、「過去にあった舞台を(小説内の出来事を既にもう全て知っている)『私』が語」ったりで目まぐるしく立ち位置が変化するのである。
面白いのは後者の「過去にあった出来事を語っている私」の語り口で、(特に冒頭部分で顕著なのだが)やたらと話を脱線させる。それが「先に言っておくけど、これから書かれている事件にはこういう背景があるんですよー」という指摘だったりするのだが、結構「実はあんまり関係ないんですけど言っておきます……」みたいな脱線の仕方もさせている。この無意味な脱線の仕方が独特の「うねり」を作っていて興奮してしまった。クライマックスの前でいきなりテンポを落とす指揮者のようである。