sekibang 1.0

2012年1月3日まで利用していたはてなダイアリーの過去記事です。

ひたむきさとピュアネス

音の城/音の海

音の城/音の海

 先日の大友良英のライヴ会場にでていたdoubtmusic物販コーナーで、以前少し触れた*1「大友が参加した知的障害者とのワークショップ」の模様を収録したCDを購入した。ユリイカの特集で大友自信が語っていたとおり、これはかなりすごい。こんなに純粋な音がスピーカーから跳ねてくるような音源は聴いたことが無い。
 まず、参加しているこどもたちが演奏する楽器から「訓練されていない音」が聴こえる、それだけでもこのCDが一般的な・商業的な・音楽のものと比べると「異様」であることを示している。この異なりは決して悪い意味ではない。作為的な“トイ・ポップ”やタモリの「やってる風即興ピアノ(これはこれで大好きな芸なのだが)」などを聴いている場合ではない、と思わせる力を持った存在感である。
 特に第2部、「大友の部屋」はすごい。ここでは大友を中心として、その他のワークショップ参加者が少人数で組んで即興演奏をおこなっているのだが、一組目のトランペット・ギター・ピアノという編成は「これ、大友の即興のなかでも5本の指に入るぐらい美しい演奏じゃなかろうか……」と唖然としてしまうぐらい良い演奏。ポツリ、ポツリと鳴るピアノに、トランペットとギターがポツリ、ポツリと応答する――そういうシンプルな即興なのだけれども、聴いていて泣きたくなるぐらい美しい。
 また、その次の編成では大友が恥ずかしいぐらい単純なメジャー・コードのバッキングをやるんだけれども、それに呼応して歌い続ける6歳の少年がいる。もちろんこの歌も訓練されていない声なのだが、その素朴さと柔らかさに心を打たれてしまう(そこで生み出されるメロディも普通に良い)。
 また、大友が爆音のノイズ・ギターをかき鳴らすところがあり、それが全く状況にあっていない「間違った即興演奏」っぽくなっているシーン。それが終わって照れくさそうに「ダメすかねぇ……」と大友が話し始めるのだが(会場は苦笑い)、そこでワークショップに参加している男の子(たぶん)が激怒しながら「ダメじゃないか!」と乗り込んでくる、というすごいところまで収録されている(マイルスVSモンクのケンカ・セッションばりの記録である)。
 しかし、これを聴いたら大友の懐の深さに改めて敬服せざるを得ない。デレク・ベイリーやフレッド・フリスといったギタリスト(即興演奏家)がすごいのは「誰とでも競演ができる」というところで、大友もまたそういった位置に行ってしまったのだな、と思う。きっとベイリーにはこんなワークショップはできなかっただろう、と考えるとますます「すごいことをやってしまってるな」という感想が高まっていく。