sekibang 1.0

2012年1月3日まで利用していたはてなダイアリーの過去記事です。

ルイジ・ノーノの再発ディスクなどについて

Nono: La lontanaza; Hay que caminar
Luigi Nono Gidon Kremer Tatjana Grindenko
Deutsche Grammophon (2003/11/11)
売り上げランキング: 41294

 長らく廃盤だったルイジ・ノーノ作品の音源がパッケージなどを変更して再び市場に出回っているようである。上にあげたものはノーノの絶筆となった《ノスタルジーユートピア的未来の遠景》の再発盤(デジパック使用)。「ノスタルジー的」な「ユートピア的未来の遠景」。タイトルに冠される文字をそのまま読めば、そこにはかつて革命闘士としてイタリア共産党員として強い政治的メッセージを含む作品を世に送り出してきた作曲家がたどり着いた位置が分かるというものではなかろうか(そのような意味があるからこそ、私はこの作品こそ最も聴いて欲しいとおもう)。
 この作品は強烈なテキストを持って、我々に訴えかけてきた70年代の作品とは全く異なる。そこから我々の耳に響いてくるものは鼓膜に突き刺さるような激しいシュプレッヒシュティンメやぶつかり合うように咆哮する金管楽器ではなく、ぼそぼそと聴き取ることの出来ないような声で亡霊的に囁く人声(これには『旅人』の役割が与えられている)と独奏ヴァイオリン、それから位相が揺れ動く磁気テープというモノクロームの音響だけだ。彷徨うようにして鳴り響き、そして沈黙との間に置かれるつぶやきには祈るような敬虔さと、それからその祈りを捧げる人物に感じる悲痛さのようなものがある。淡く描かれた水墨画のような作品だけれども、迫ってくるものは実に強く、美しい。

Nono: Como una ola de fuerza y luz; Manzoni: Masse
Giacomo Manzoni Luigi Nono Claudio Abbado Giuseppe Sinopoli Bavarian Radio Symphony Orchestra Berliner Philharmoniker Sinfonie-Orchester des Bayersichen Rundfunks Maurizio Pollini
Deutsche Grammophon (2003/01/14)
売り上げランキング: 21315

 70年代の「強烈にメッセージを言い放つノーノ」の主要作品《力と光の波のように》と《……苦悩に満ちながらも晴朗な波……》をクラウディオ・アバドマウリツィオ・ポリーニという「同志」が録音したものは収録曲とジャケット写真を変更して↑のアルバムで再発されている*1。《力と光の波のように》は「イタリアではなく東ドイツ共産主義に信奉し、そして東ドイツ崩壊と共にピストル自殺をしてしまったヘルベルト・ケーゲルの演奏と比べると、まとまっている印象。それゆえに衝撃力は弱まってしまうのだが、ソプラノ歌手が素晴らしくてガツンと来てしまう。のだが、晩年の作品を聴いてしまうとここにあるメッセージにははるかに「無駄の多さ」を感じてしまう。

Luigi Nono: Fragmente; Hay que caminar
Luigi Nono David Alberman Irvine Arditti
Montaigne Naive (2003/11/18)
売り上げランキング: 10772

 それからアルディッティ弦楽四重奏団による晩年の弦楽作品集。1979年から1980年に書かれた《フラグメンテ》*2を聴くと実に内容に抑制されたものを感じる(とにかく音数が少ない)。「年をとるにつれて、口数を少なくしていきながら、伝わるメッセージを多くしていく」という矛盾がある行為をここまで見事に成し遂げることのできた作曲家はノーノ以外に存在しないのではないか、と思う。

*1:Contrappuntoが元々のディスク。ユーズドで500円で出ているので今が買いです。カットされている《Contrappunto dialettico alla mente》は珍しいので

*2:カップリングの《hay que caminar》sognandoは先にあげた《ノスタルジーユートピア的未来の遠景》のディスクにも収録されている