sekibang 1.0

2012年1月3日まで利用していたはてなダイアリーの過去記事です。

石像が普通に登場。

 随分前に買ってフィナーレ以外に全く観ていなかったダニエル・ハーディング指揮のモーツァルトドン・ジョヴァンニ》のDVD。良い機会だったので、鍋パーティに集まっている人たちと一緒に観ました。モーツァルトに対してあまり深い思いがない私が何故ドン・ジョヴァンニのDVDを買ってしまったかと言うと……。

 映画『アマデウス』中で演じられる《ドン・ジョヴァンニ》のフィナーレで「短調モーツァルト」に痺れてしまったからです(↑の動画)。この歌劇はドン・ジョヴァンニ(1000人以上の女とヤリまくってた男)が主人公。フィナーレでは、ドン・ジョヴァンニがぶっ殺した男が石像(幽霊)になって出てきて地獄へ連れて行ってしまうという酷い話なんですが、『アマデウス』中の演出は石像が壁をぶち破って登場する……というものすごい演出。石像、でかすぎ。

 で、そういうすごい演出を楽しみしてたんですが、ハーディングの演奏ではモダン演出なので普通に石像が登場しました(物陰から歩いて出てくる)。なんかワイヤーとか使って空から降りてくるぐらいはして欲しいものです。スーパー歌舞伎みたいだけど……。普通はドン・ジョヴァンニが地獄に落ちたら幕が下りるのですが、この演奏ではその後の削除されたシーン(ドン・ジョヴァンニの家に今まで捨ててきた女とかが殴りこんでくる)が復活しています。ちょっとお得感はあるけれど、主人公死亡でスッキリ終わるラストに長調で「あいつ、地獄に落ちたんだってヤッター!」なんていう取ってつけたようなハッピーエンドは少々いらない感じもします。

 演奏は最高なんですけどね。

 指揮のダニエル・ハーディングは1976年生まれ、記録的に若い年齢で世界的デビューを果たした指揮者(ちなみにサイモン・ラトルクラウディオ・アバドの弟子)で、いつも新鮮な音楽を聞かせてくれます。ブラームスベートーヴェンといった古典モノが特に良いです。古典モノというと、既にたくさんの名演が存在し「もう解釈が出尽くしてしまったんじゃないか?」と、指揮者泣かせの曲に取り組んでも、名曲の新しい一面を掘り起こしていることがすごい。むしろ、世界中の指揮者という指揮者がそうであって欲しいのですが。

ブラームス:交響曲第3番&第4番
ハーディング(ダニエル) ドイツ・カンマー・フィルハーモニーブレーメン ブラームス
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 テンポは基本的に速く、そして軽やか、さらに爽やか。ヴィジュアルも爽やか系ですが、「若さ」を売りにしてるような演奏を戦略的に行っている気がします(ゲルギエフが『情熱系』の演奏をするように)。それが意識どおりにハマるっていうのは実はすごいことだと思う。「ハーディングの新しさ」がすごく良く出ているのはブラームス交響曲第3番の演奏。これを聴いた時は本当に天才だと思いました。「主旋律と対旋律」や「表拍と裏拍」といった二つセットになった音楽的要素を平均的に扱うことによって「羽根のように軽いブラームス」を描いています。

 こんな芸当ができるのはハーディングだけ!観れるときに観ておいたほうが良い指揮者として挙げておきます。