レオニード・コーガンボックスの感想
http://www.hmv.co.jp/product/detail.asp?sku=1372685
先日、オランダの廉価CDレーベル「ブリリアント」から発売されている「Historic Russian Archives」シリーズのレオニード・コーガン10枚組ボックスを購入しました。やっと10枚すべてをそれなりに聴き終えたところなので感想を書いておきます。
まず、率直な感想を言うと「これで定価5144円(HMV店舗で買うともう少し安い)は安すぎ」。個人的に注目していたのは、長年廃盤だったショスタコーヴィチのヴァイオリン協奏曲第1番の録音でしたが、デニーソフ、ハチャトゥリアン、フレンニコフなどそれほど知名度が高くないソヴィエトの作曲家の音源まで手に入るのはお得です。
特にデニーソフ《ヴァイオリンと室内オーケストラのためのパルティータ》は、作品的にも興味深い。これはJ.S.バッハの《無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第2番》(有名な《シャコンヌ》があるやつ)を室内オーケストラとの協奏曲的に編曲したものですが、ここで行われた編曲はただ単に原曲にオーケストレーションを施したものではありません。デニーソフは新たに対旋律を書き加え、さらに「現代音楽的な」不協和音を添えています。この新たな書き加えが、原曲に対する影のように響いていて大変面白い。シュニトケの「多様式主義」の前段階とさえ感じられました。
録音の状態は古いもの(50-60年代)が半分、割と新しめのもの(70-80年代)が半分と言ったところでしょうか。レニングラード・フィルでムラヴィンスキーの前任だったアレクサンドル・ガウクや、コーガンの息子であるパヴェル・コーガンの指揮などはなかなか聴けるものでなくこれも貴重です。また、現代であればピアノ伴奏で演奏されるような小品(ショーソン《詩曲》、ヴェニヤフスキ《伝説》など)もすべてオーケストラ伴奏で演奏されています。そのあたりにソヴィエト連邦という国の「意地」のようなものを感じます(フランクのヴァイオリン・ソナタまでオーケストラ伴奏のものに編曲されていたりする)。
コーガンの演奏を集中的に聴く機会は今回が初めてでしたが、彼の演奏スタイルは古楽の演奏法を取り入れる前のヴィクトリア・ムローヴァと似ていることに気がつきました。ピンと芯の張った硬い音色、速めのテンポ設定、歌い崩れることのない解釈。不思議だなぁ、と思って調べてみるとやはりムローヴァはコーガンに師事していたようで「似ているのは当然の結果」ということが分かりました。