リクエストに答えて。
id:love-joyさんから「プロコフィエフのオススメを教えてください」とのご要望をいただいたのでセルゲイ・プロコフィエフについてのエントリーを書きます。
プロコフィエフという作曲家はドミトリ・ショスタコーヴィチと並んぶソ連を代表する作曲家として知られております。1891年生まれということでショスタコーヴィチ(1906年生まれ)よりは一世代上ですね。ラフマニノフとショスタコーヴィチの間の世代というか。1917年のロシア革命以降に亡命しているのは、ストラヴィンスキーと一緒。行き先はアメリカ、その後にパリに渡ります。作品はフランスの印象派の影響が強いのか、ドビュッシーやラヴェルを少し抽象度を高めた感じの作品を書いています。あるいは、頭のねじれた「フランス6人組」とでもいうべきでしょうか。まぁ、この人もストラヴィンスキーと同じようにころころ作風を変えているので一概には言えません。初期の作品は、「洒脱なロマン派」みたいだし。《スキタイ組曲》のような泥臭い曲はあまりない。また劇音楽もたくさん書いていますが、そちらはかなりシンプルな作り。金管が派手に鳴って、メロディが良くて…ずっと聴いていると疲れる…みたいな。交響曲も書いていますが、これについてはほとんど聴いていないため言及できません。ゲルギエフが最近全集を出したようです。
作曲家の概観としてはこれぐらいで良いでしょうか。ではオススメの演奏などを。
プロコフィエフ:ピアノ協奏曲第3番posted with amazlet on 06.06.15
まず一枚、というならピアノ協奏曲第3番を。これは亡命後パリに移ってからの作品ですね。「うおー、パリって楽しいなー」みたいな躁っぽさがある(実際どうかは知らないけれど)。派手でキャッチーでカッコ良いです。演奏時間も短く飽きない。↑の録音はアルゲリッチによる演奏(伴奏はアバド/ベルリン・フィル)。超高速テンポで難曲をバリバリと弾ききる感じが恐ろしくエネルギッシュ。
アルゲリッチと言えば子供3人の父親がそれぞれ別…という「クラシック界の内田春菊」みたいな人でして、演奏会後に共演者と寝まくっていたという逸話は、こういったパワフルな演奏から「本当っぽいなぁ…」と思えてくる。顔はアンドレ・ザ・ジャイアントみたいだけど。
プロコフィエフ/ピアノ・ソナタ第7番「戦争ソナタ」posted with amazlet on 06.06.15
あと有名なのは《戦争ソナタ》と呼ばれるピアノ・ソナタでしょうか。1934年にプロコフィエフは「うっし、そろそろ祖国も大丈夫みたいだし、俺も有名になったし帰るか」みたいな感じでソ連に凱旋帰国します。でもそれから2年ぐらいしてすぐ《プラウダ批判》*1があり、「なんだよー、折角帰って来たのによー、好き勝って書かせろよー」とブツクサ言いながら作曲活動していた頃に連作で書かれたピアノ・ソナタが《戦争ソナタ》と呼ばれています(何が「戦争」かは知らない)。
ピアノ・ソナタ第6、7、8番がそれに当たります。↑のアルバムには第7、8番を収録(演奏はミハイル・プレトニョフ。第2番も入っている)。ギクシャクした「モダーンなリズム」をスマートに弾いている。プロコフィエフの作品では《戦争ソナタ》が一番「ソヴィエト」っぽいでしょうか。第7番は坂本龍一もたぶんなんかの曲でパクっている…。
スクリャービン&プロコフィエフposted with amazlet on 06.06.15
第6番はリヒテルの演奏が素晴らしすぎ。ギクシャクしたリズムがピアノの強奏で打ち鳴らされるところから曲が始まるのですが、これはもうリヒテルのための音楽なのではないだろうか、というぐらいの快演。これでもか、というほど力強く打ち鳴らされたピアノの音は、ハンマーで殴られたかのような衝撃。
*1:「前衛っぽい音楽はインテリ臭いからダメよ!」というお触書みたいなもの