yanokami / 遠くは近い
レイ・ハラカミ急逝のニュースは衝撃というよりも、あまりにも呆気なく、そして静かに人が亡くなっていくその事実を伝えるもので、くるりの「ばらの花」のリミックス音源を聴きながら、そうかあ……と思い耽ることしかできずにいた。個人的な親交があったわけでも、熱心なファンであったわけでもない。急に亡くなったから、そこで急に態度を変えて慈しみはじめるのもなんだか違うような気がするし、結局、yanokamiの新譜を買ったのもたまたま聴いていたラジオで「Don't Speculate」が耳に入り、なんだか素晴らしい音楽であるな〜、と思ったただそれだけの理由である。
荒井由実、オフコース、坂本龍一 & デイヴィッド・シルヴィアン、ローリング・ストーンズのカヴァーは、どれもほとんど脱構築的と言っていい解釈によってほとんど原曲がわからない形に変形される。残っているのは、具体的には言葉だけで、それが特別に印象的なのはオフコースの「Yes Yes Yes」だった。言葉は小田和正なのに音楽は矢野顕子とレイ・ハラカミのものとして完全に血肉化されてしまっている、というか。以前に矢野顕子による「ばらの花」を聴いたときにも感じた衝撃がここでも繰り返される。まるで楽曲が一端極度に抽象化されて理解され、再度別な音楽へと作り変えられるダイナミックなプロセスがまじまじと見せつけられるようだ。矢野顕子の頭のなかってどうなっているの、と問わずにはいられなくなる。
このあまりに自由な感性が踊る場を与えているのがレイ・ハラカミの柔らかいトラックだったのだな。