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2012年1月3日まで利用していたはてなダイアリーの過去記事です。

フランソワ・ラブレー『ガルガンチュア』(ガルガンチュアとパンタグリュエル)

ガルガンチュア―ガルガンチュアとパンタグリュエル〈1〉 (ちくま文庫)
フランソワ ラブレー Francois Rabeleis 宮下 志朗
筑摩書房 (2005/01)
売り上げランキング: 70201

 フランソワ・ラブレーによるフランス・ルネサンスを代表する小説『ガルガンチュアとパンタグリュエル』の『ガルガンチュア』を読みました(一応、第一巻なんだけれど、書かれたのは“第二の書”である『パンタグリュエル』のほうが先)。面白かった!
 「ルネサンス」というと高校世界史にも出てくるキーワードだし、なんか堅苦しいイメージがあるけど、ラブレーの小説に出てくる下ネタの嵐にはそのような小難しさは一切感じません。主人公である巨人、ガルガンチュアの出生も「脱肛を起こして下腹部のあたりがつまっちゃったおかげで、通常赤子が生まれてくる場所からでなく、耳から生まれてきました!」という乱痴気ぶり。あと、おしっこで洪水がおきてたくさん人が溺れ死んだり、ウンコチンコがやたら出てくるなど、レベル的にはほぼ小2。読みながら「うーん、これが人文主義ってやつなのか……たしかに人間性が大らかに発露してるよなぁ」と思いながらゲラゲラ笑いました。
 恐ろしいのは、小2レベルの下ネタとギリシャ哲学や同時代の哲学の教養がごく普通に並置されているところ。ホメロスプラトンアリストテレスエラスムス……などなどの引用が間にたくさん挟まれているんですが、これは的を射た引用である場合もあり、荒唐無稽な解釈がされている場合もある。この高度な遊戯性に書き手のすごさが垣間見れます。ものすごい二面性。
 こういった古典作品を読むにあたって、当時の文脈を考えながら読む(当時の社会状況や風刺的な意味を汲み取ったりする)か、または、完全に現代の文脈の上で読むか、というふたつの読み方があるように思います。この本に関しては、そのどちらの読み方でも楽しめるところが良い。例えば、翻訳者がうざったいぐらいにつけてくれる注釈によって「実はこの下ネタは、当時の教会に対する強烈な風刺で、かなりヤバい発言だった」などということを知ることができる(当時の文脈で読める)一方で、訳文はとても読みやすい形になっており、訳しにくそうなユニークな言葉も上手い具合に日本語化されている(個人的に、この巻でベストヒットだったフレーズは『はめはめ遊び』。声に出して読みたい日本語!)。これはとんでもない良い仕事だと思いました。
 しかし、あまりに風刺がキツすぎたせいで当時は禁書扱い、しかもラブレーも結構ヤバい状況におかれて迫害を受けた……という史実を知ってしまうと「なんでそこまでしてこの本を書かなきゃいけなかったんだろう……下ネタばっかりなのに……」と思わざるを得ません。ケンドーコバヤシのコントに「下ネタ禁止法制定後の近未来を舞台としたコント」がありましたが、それを彷彿とさせなくもない。