sekibang 1.0

2012年1月3日まで利用していたはてなダイアリーの過去記事です。

ダウンロード祭

http://www.earlabs.org/label/labelintro.asp
 id:t_yoshidaであるところのYくんからのタレコミで知る。海外の音源DLサイト。英語を読むのが面倒なので詳しくはよく分からないのだけれど、ものすごい貴重な音源がたくさんDLできて脳内麻薬がだだ漏れになってしまいそうな勢い。まぁ、音源の大部分について知らないものばかりなのだけれど、「ダダイズム詩の朗読」とか「未来派」とか「日本の電子音楽」について興味がある(一部の限られた)方は必見。いつものようにいくつかの音源に解説めいた感想を書きます。


未来派――http://www.earlabs.org/label/LC/LC002.htm
 未来派についてはきっとYくんの方が詳しくて、私は「戦争は美しい!」という名文句とイントナルモーリについてしか知らない。ここではルイジ・ルッソロの作品などが聴ける。この音源も詳細が書いて無いからよくわからんのだが、初めて聴くルッソロの作品は超凶悪なアコースティック・ノイズが満載で単純にカッコ良かった。ドリルで壁を破壊するような音とか聴こえるのだけれど、これがイントナルモーリなんだろうか。兎に角、一つだけ言える事は電子的な合成によって作られたノイズは、アコースティックなノイズに勝つことができない、ということ。飼いならされてない野性味のあるノイズは、(ルッソロだってインテリだろうけど)インテリ向けのノイズ・アーティストを粉砕する感じ。


 あと聴けるのは詩の朗読とか。これはLPをMP3化した模様。LPをリリースしたのは「Cramps」というレーベル。イタリアの極左バンド、AREAと同じですね。ジョン・ケージの有名な「キノコのジャケのアルバム」もこのレーベルからのリリース。マリネッティの詩の朗読なんて、当時のイタリアでどれだけの需要があったのか想像も付きませんが、とにかく聴く人をホットにあっせる左翼的アジテート調の朗読は、イタリア語なんてちっともわからなくても面白い。


日本の電子音楽の最初期――http://www.earlabs.org/label/LC/LC010.htm
 黛敏郎武満徹、諸井誠(諸井三郎の息子)、長谷川良夫などの作品が聴ける。黛敏郎の《ミュージック・コンクレートのためのXYZ》の音源が貴重っぽい。これ、日本最初の電子音楽作品ということで名前だけは知っていたのだけれど、実は聴いたことが無かった(そういう人は結構多そう)。で、作品の内容ですが、さすがの黛先生です。日本初にして最高のミュージック・コンクレート作品を作っていらっしゃいます。


 《X》で使われる具体音は「ハンマーの打撃音」、「戦闘機が飛ぶ音」、「モールス信号の発信音」、「進軍ラッパ」と、1953年、終戦からわずか8年にしては過激すぎるのではなかろーか、っていう。それに続く《Y》、《Z》は具体音のインパクトでは《X》に適わないけれど、興味深い。特に《Z》は12音技法で書かれたショート・ピースをテープの回転速度を変化させたり、逆回転させたりして新たに再構成するみたいになっている(これ、今では割とポピュラーとも言える手法だけど)。その出来上がりがなんかダンサブルなんだよね。途中、おそらく回転速度を高めて音高を高くした太鼓がポコポコと鳴ってたりして。仏のような顔をして『題名のない音楽会』の司会を務めていらしゃった黛先生は、20世紀の邦人作曲家で最も過激な人なんだろうなー。右翼なのに音楽は革新ってのも面白いんだけど。


 あと武満徹の作品は瀧口修造中心の前衛芸術集団『実験工房』でバリバリやってたころの作品。武満徹はこんなこともやってたんだ、という意味では貴重。聴いてみると、ものすごく無駄の無い狙いのハッキリした作品。《ヴォーカリズム・アイ》は、「ai」という言葉を色んなニュアンスで言うだけなんだけれども(それによって『ai』の様々な意味を浮かびあがらせる)、似たような試みを川島素晴がやって来た気がする(そしてその作品で、見事藝大の卒業を一年延ばしてしまった、とか)。ただ、こういった試みって、作曲家というよりも詩人の仕事だよなぁ、と思った。